夢見町の史
Let’s どんまい!
2008
February 14
February 14
前編はこちらからどうぞ。
人生初の和凧は、人智を超えた動きを思う存分に見せつけてくれた。
スピード感があって斬新で、なおかつ少しも飛ばなかった。
チーフの手から離された瞬間に凧は、「自分、高所恐怖症ですから」といわんばかりに地球に突撃した。
地下に潜ろうとしているのかと本気で思ったぐらいだ。
チーフは一体、何のために足を取り付けたのだろうか。
この凧を飛ばすぐらいなら、大仏を飛ばせたほうが手っ取り早そうに思える。
犬の呪いかも知れない。
「いい風吹いてるんだけど、やっぱり和凧は難しいね。もう1回やろう」
「そうだな」
チーフが再び凧を両手で持ち上げる。
ヒモを持った俺が、「いっせーの、せっ!」と号令を発し、駆け出す。
すると今度は、さっきよりも全然バッチリだった。
さっきよりもバッチリ、素晴らしい速度で凧は落ちた。
自然落下するよりも早い下降っぷりに驚愕の色が隠せない。
まるで凧の叫びが聞こえてくるかのようだ。
「俺は大地と共に生きる!」
見事に飛ぶ気配ゼロだった。
装飾用の凧だからなのか、単に俺たちのテクニックが足りなかったのか、はたまた犬に呪われているのか。
とにかくこの凧が宙を舞う様が想像できない。
たった2回の挑戦だったが、俺たちは容易に結論に達することができた。
「この凧を飛ばすのは不可能だ」
「スー君が持ってきた普通の凧を上げよう」
役立たずの和凧からヒモだけを回収し、スー君の凧糸にまずは連結をさせることに。
いつしか凧を持ち上げる係と、凧糸を持って走る係と、地面に落ちている糸を巻いて回収する係とに分担されていた。
糸の回収役であるスー君が、ここで意外な働きを見せてくれることになる。
「ああ! ああ! ああ! 絡まる~! 絡まる~!」
冗談かと思って見るとスー君は本当に絡まっていて、何が原因でそうなったのか全く理解できなかった。
ヒモを芯に巻きつけるだけの仕事なのだ。
苦戦どころか、絡まる意味が解らない。
「ヒモが! ヒモが! ああ~!」
「どうしてそんなピンチに陥っちゃうのか、意味がわかんねえ!」
見るに耐えないので、ヒモは俺が回収することに。
俺がヒモを巻いている間、同時進行で凧揚げも再開することになった。
チーフが走って、スー君が凧を離す。
この時、俺的には全米が泣いた。
なんと、凧が。
信じられないことに、どういったわけか、凧が、何故か飛んだのだ。
夢かCGじゃないのか?
いや現実だ。
凧が、なんでかよくわかんないけど、飛んでしもうた。
「うおおお!」
「飛んだー!」
「やったー! すげー!」
重ね重ね言うが、全員30代だ。
糸を引きながら凧を操って、チーフも満面の笑みを浮かべている。
「俺、今気づいたんだけど、凧揚げやると二日酔いが治る」
ホントだ!
と俺も大喜び。
「スー君もやってみるか?」
「やる!」
今度はスー君が凧を体験する。
「ああ!」
スー君が叫んだ。
「絡まる~! 絡まる~!」
凧を上空にやりたかったのだろう。
でも、何故それで糸と手が絡まって取れないことに?
「絡まるんだよう~」
「君、キング・オブ・不器用だな! 有り得ねえだろ! なんでそうなるんだよ、再びよ!」
またまた俺はスー君から仕事を奪い取る。
なんだか、負けた気分がしていた。
本来なら、俺こそが最も何も出来ないポジションに位置する人のはずなのだ。
それなのに、スー君のように、無条件で糸が絡まることはない。
ただひたすら、悔しかった。
俺以上に簡単なことさえ任せられない人がいるとは夢にも思わなかったからだ。
完敗だ。
凧揚げ自体は楽しいので、複雑な心境である。
「なんか、思ってた以上に楽しくないか?」
チーフは満足気に、「意外とテクニックが要る」などと言って悦に入っている。
彼の言う通りで、凧は何もしないと勝手に落ちてしまいそうで、ちょくちょく糸を引いたり場所を変えたりと、手間暇かけてやる必要があった。
ある程度の楽しさは予想していたが、まさかここまで面白いとは思わなかった。
「この凧を持ってきてくれたスー君に感謝だな。俺の凧しかなかったら、もう2度と凧揚げに挑戦しなかった」
これもチーフの言う通りだ。
あの決して飛ばない和凧は、飾る専用に作られた物だからなのか、今になって思えば変なところから糸がやたら伸びていて、バランスが取れるとは到底思えなかった。
和凧のみで挑んでいた場合、きっと俺たちは今頃、マスターを電話で呼び出していたことだろう。
「マスター! 凧が飛ばないの。公園まで来て」
突然の呼び出しに、凧揚げマスターもさぞかし反応に困ることだろう。
「いや、俺はいいよ、寒いし。凧揚げ、諦めなよ」
凧揚げのプロからのアドバイスが「諦めなよ」になってしまっては、こちらとしても諦めざるを得ない。
普通の、三角の凧を持ってきてくれたスー君は、もっと称えられるべきだろう。
しかし俺たちは結局、スー君にお礼を言うことができなかった。
スー君は先ほど、「ちょっと走ってくる」などと突拍子もないことを言い出し、800メートルのマラソンコースを回り始めたからだ。
せっかく飛んだ凧も涙目だ。
凧は、ぐんぐんと上昇していく。
一応、画像にも収めてみた。
謎の飛行物体みたいなことになっているが、凧だ。
「これさあ」
チーフも俺と同じく、空を見上げている。
「またやろうぜ? 春ぐらいに」
とてもさっきまで延期を訴えていた男の発言とは思えない。
でも、その意見には大賛成だった。
日が落ちてきたところで、凧をちょっとずつ下ろす。
最後に凧はふわりと地面に落ちて、俺は「夢をありがとう」とつぶやいた。
春になったら、また飛ばせてやっからな!
なあ、スー君?
と振り返ると、そこには誰もいない。
スー君は「あー! わんこちゃん!」などと感激して、人様の犬を追い駆け回していた。
よく走る人だ。
「思ってた以上に楽しかったねー」
「そうだなー」
スー君がそのままどっかに迷子にならないよう見守りながら、チーフと俺は余韻に浸っていた。
凧揚げはおそらく、定期的に続けられるに違いない。
俺は、ちゃんとした凧糸を用意しておこうと心を決めた。
人生初の和凧は、人智を超えた動きを思う存分に見せつけてくれた。
スピード感があって斬新で、なおかつ少しも飛ばなかった。
チーフの手から離された瞬間に凧は、「自分、高所恐怖症ですから」といわんばかりに地球に突撃した。
地下に潜ろうとしているのかと本気で思ったぐらいだ。
チーフは一体、何のために足を取り付けたのだろうか。
この凧を飛ばすぐらいなら、大仏を飛ばせたほうが手っ取り早そうに思える。
犬の呪いかも知れない。
「いい風吹いてるんだけど、やっぱり和凧は難しいね。もう1回やろう」
「そうだな」
チーフが再び凧を両手で持ち上げる。
ヒモを持った俺が、「いっせーの、せっ!」と号令を発し、駆け出す。
すると今度は、さっきよりも全然バッチリだった。
さっきよりもバッチリ、素晴らしい速度で凧は落ちた。
自然落下するよりも早い下降っぷりに驚愕の色が隠せない。
まるで凧の叫びが聞こえてくるかのようだ。
「俺は大地と共に生きる!」
見事に飛ぶ気配ゼロだった。
装飾用の凧だからなのか、単に俺たちのテクニックが足りなかったのか、はたまた犬に呪われているのか。
とにかくこの凧が宙を舞う様が想像できない。
たった2回の挑戦だったが、俺たちは容易に結論に達することができた。
「この凧を飛ばすのは不可能だ」
「スー君が持ってきた普通の凧を上げよう」
役立たずの和凧からヒモだけを回収し、スー君の凧糸にまずは連結をさせることに。
いつしか凧を持ち上げる係と、凧糸を持って走る係と、地面に落ちている糸を巻いて回収する係とに分担されていた。
糸の回収役であるスー君が、ここで意外な働きを見せてくれることになる。
「ああ! ああ! ああ! 絡まる~! 絡まる~!」
冗談かと思って見るとスー君は本当に絡まっていて、何が原因でそうなったのか全く理解できなかった。
ヒモを芯に巻きつけるだけの仕事なのだ。
苦戦どころか、絡まる意味が解らない。
「ヒモが! ヒモが! ああ~!」
「どうしてそんなピンチに陥っちゃうのか、意味がわかんねえ!」
見るに耐えないので、ヒモは俺が回収することに。
俺がヒモを巻いている間、同時進行で凧揚げも再開することになった。
チーフが走って、スー君が凧を離す。
この時、俺的には全米が泣いた。
なんと、凧が。
信じられないことに、どういったわけか、凧が、何故か飛んだのだ。
夢かCGじゃないのか?
いや現実だ。
凧が、なんでかよくわかんないけど、飛んでしもうた。
「うおおお!」
「飛んだー!」
「やったー! すげー!」
重ね重ね言うが、全員30代だ。
糸を引きながら凧を操って、チーフも満面の笑みを浮かべている。
「俺、今気づいたんだけど、凧揚げやると二日酔いが治る」
ホントだ!
と俺も大喜び。
「スー君もやってみるか?」
「やる!」
今度はスー君が凧を体験する。
「ああ!」
スー君が叫んだ。
「絡まる~! 絡まる~!」
凧を上空にやりたかったのだろう。
でも、何故それで糸と手が絡まって取れないことに?
「絡まるんだよう~」
「君、キング・オブ・不器用だな! 有り得ねえだろ! なんでそうなるんだよ、再びよ!」
またまた俺はスー君から仕事を奪い取る。
なんだか、負けた気分がしていた。
本来なら、俺こそが最も何も出来ないポジションに位置する人のはずなのだ。
それなのに、スー君のように、無条件で糸が絡まることはない。
ただひたすら、悔しかった。
俺以上に簡単なことさえ任せられない人がいるとは夢にも思わなかったからだ。
完敗だ。
凧揚げ自体は楽しいので、複雑な心境である。
「なんか、思ってた以上に楽しくないか?」
チーフは満足気に、「意外とテクニックが要る」などと言って悦に入っている。
彼の言う通りで、凧は何もしないと勝手に落ちてしまいそうで、ちょくちょく糸を引いたり場所を変えたりと、手間暇かけてやる必要があった。
ある程度の楽しさは予想していたが、まさかここまで面白いとは思わなかった。
「この凧を持ってきてくれたスー君に感謝だな。俺の凧しかなかったら、もう2度と凧揚げに挑戦しなかった」
これもチーフの言う通りだ。
あの決して飛ばない和凧は、飾る専用に作られた物だからなのか、今になって思えば変なところから糸がやたら伸びていて、バランスが取れるとは到底思えなかった。
和凧のみで挑んでいた場合、きっと俺たちは今頃、マスターを電話で呼び出していたことだろう。
「マスター! 凧が飛ばないの。公園まで来て」
突然の呼び出しに、凧揚げマスターもさぞかし反応に困ることだろう。
「いや、俺はいいよ、寒いし。凧揚げ、諦めなよ」
凧揚げのプロからのアドバイスが「諦めなよ」になってしまっては、こちらとしても諦めざるを得ない。
普通の、三角の凧を持ってきてくれたスー君は、もっと称えられるべきだろう。
しかし俺たちは結局、スー君にお礼を言うことができなかった。
スー君は先ほど、「ちょっと走ってくる」などと突拍子もないことを言い出し、800メートルのマラソンコースを回り始めたからだ。
せっかく飛んだ凧も涙目だ。
凧は、ぐんぐんと上昇していく。
一応、画像にも収めてみた。
謎の飛行物体みたいなことになっているが、凧だ。
「これさあ」
チーフも俺と同じく、空を見上げている。
「またやろうぜ? 春ぐらいに」
とてもさっきまで延期を訴えていた男の発言とは思えない。
でも、その意見には大賛成だった。
日が落ちてきたところで、凧をちょっとずつ下ろす。
最後に凧はふわりと地面に落ちて、俺は「夢をありがとう」とつぶやいた。
春になったら、また飛ばせてやっからな!
なあ、スー君?
と振り返ると、そこには誰もいない。
スー君は「あー! わんこちゃん!」などと感激して、人様の犬を追い駆け回していた。
よく走る人だ。
「思ってた以上に楽しかったねー」
「そうだなー」
スー君がそのままどっかに迷子にならないよう見守りながら、チーフと俺は余韻に浸っていた。
凧揚げはおそらく、定期的に続けられるに違いない。
俺は、ちゃんとした凧糸を用意しておこうと心を決めた。
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