夢見町の史
Let’s どんまい!
February 11
彼女はプロダクションに所属し、歌で生計を立てているのだそうだ。
歌手というより、シンガーソングライターに近いんだろうな。
そんな印象を、俺は持った。
「たいしたもんだね。凄いよ。歌で喰っていきたいって思ってる人、大勢いるだろうに。ホント凄いよ」
「そうでもないですよ」
憂うような表情を、彼女は浮かべていた。
「本当に唄いたい歌も唄えないし、書きたい詩も書けないんです」
聞けば「こんな感じの詩にしてくれ」とか「こういう曲を唄ってくれ」とか、事務所からの注文が細かくて、彼女は自分の表現をさせてもらえないのだそうだ。
そんなんでは、せっかく叶った夢が台無しだ。
「作りたい曲、あるのに」
彼女はそれで、うつむいた。
俺は俺で、この頃はスランプを感じている。
いつか創作した「砂時計」は1日で、「永遠の抱擁が始まる」は3週間で作り上げた。
にもかかわらず、最近は頭の中に物語が全くといっていいほど湧いてこない。
「俺さあ、夢の1つに、ルパン三世のシナリオを書くっていうのもあるんだよ」
気づけば酒の勢いで、俺は饒舌になっている。
「最近のルパンの映画ってさ、俺個人の基準なんだけど、全然面白いと思えないんだよ。昔は名作がたくさんあったように思えるのね? だからいつか作家になったら、昔のルパン映画を超えるようなシナリオを書いてみたいんだ」
その前に手始めといった形で、映画のような長編ではなく、簡単なシナリオを書いてみたいとも、俺は言った。
そして、今のままでは難しい、とも。
「だからさ」
1つ、彼女に提案を試みる。
「俺、近々、短編ぐらいの長さだろうけど、ルパンの話を作るよ。だから君も、自分が本当に作りたい曲を作ってみようよ」
喧騒の中、オフ会での1コマだ。
彼女は静かに、「いいですね、それ」と言った。
<ルパン3世 ――飛べ、総理大臣――>
「おいルパンよ、そのお宝ってのは、一体どこに埋めたんだ」
助手席の次元が、半ば寝ぼけたような調子で、灰皿からシケモクを取り出して咥えた。
長時間車に揺られ、疲れたのだろう。
シートを倒し、だらしなく身を沈めている。
シケモクに火を点ける様子はない。
「もーうちょっとだぜ~」
さっき訊かれた時も、全く同じセリフと陽気さで、ルパンは返していた。
次元は身動き1つしないまま、何かを諦めたように眠りにつく。
後部座席であぐらをかき、大仏のように座っている五右衛門は、相変わらず無口だ。
ルパンはカーラジオの音量を少し下げた。
ちらちらと降っていた雪は、わずかばかり強くなったようだ。
ワイパーが重たそうに左右している。
今、上空から見れば、ルパンの愛車によるスポットライトが、カーブする山道を縫っていることだろう。
お宝を埋めたのは20年前。
盗んですぐに使えば足がつく類の財産であったため、人気のない山中に埋め、眠らせることにした。
気づけば事件は時効を迎えていたので、久しぶりに日本の土を踏んだ次第だ。
そうでなければ、今のこの国には用がなかった。
バブル時代と呼ばれるような、経済的に豊かだった頃なら、あるいは盗みたい物の1つや2つ、あっただろう。
ターゲットに成り得る成金たちがうじゃうじゃいて、彼ら相手に悪ふざけをしていた当時が懐かしい。
「ん~?」
車を止め、ルパンは訝しげに眉をひそめる。
「おやま」
「ん~、どうしたルパン」
目を覚ましたらしい次元が、伸びをしている。
「こーりゃ参ったぜ~。次元、五右衛門、あれ、見てみ?」
車窓からは、雪と、それらが積もりつつある別荘らしき建物のシルエットが望めた。
別荘とはいっても、屋敷ほどの巨大さだ。
「こ~んな建物、20年前はなかったんだけんどねえ~」
「おいおい、まさかお宝、工事の時に見つけられちまったんじゃねえだろうな」
「いんや? たぶん無事だ~」
それまで寡黙だった五右衛門が、初めて口を開いた。
「なぜ解る」
「あっこに大きな柿の木が見えるだろ~? 庭の辺りさ。お宝は、あの木の根元なんだなあ~」
誰の物とも解らないこの別荘に忍び込まなければ、お宝は回収できないということらしい。
次元が溜め息をついた。
「取り合えず、どっかに車を停めねえとな」
別荘があるということは、人が来る可能性があるということだ。
目立たない場所を選んで、ルパンは車を駐車した。
一味はシャベル片手に別荘の塀をよじ登る。
「このご時世に、こーんな別荘建てちゃって、景気が良いことで、…って、おんや? 誰かいるぜ」
塀の上で、3人は目を細めた。
明かりの点いていない部屋に、人影がある。
ルパンたちが見守っているとも知らず、人影は暗い部屋で台に乗り、天井に何かをしていた。
ロープをくくりつけている様子だ。
輪になったロープの先端に、人影は頭を通す。
その人物はあろうことか、自ら踏み台を蹴って、ぶら下がってしまった。
「次元!」
ルパンが鋭く怒鳴る。
五右衛門も似たような視線を次元に向けた。
次元は言われるより早く懐から銃を抜き、首を吊っているロープ目がけ、撃った。
ガラスに、銃弾が弾かれる。
「マグナムが効かねえ! なんでえ、この別荘! ただの別荘じゃねえぞ!」
悲鳴のように次元が叫ぶと同時に、五右衛門が塀から飛び降りた。
雪が舞う。
身を低くして庭を走りぬけ、五右衛門は名刀を素早く抜いた。
闇夜に閃光が走り、強化ガラスが両断される。
五右衛門が剣を鞘に収めると同時に、人影は床に落ちた。
ロープの切断に成功したのだ。
「ふう~。ま~さか首吊り現場に遭遇するとは思わなかったぜ~」
寝室らしき部屋に運び入れると、別荘の主らしき人物は初老の男だった。
意識を失っているが、発見が早かったので、もうじき目を覚ますだろう。
「はてな、ど~っかで見たことある顔なんだよな~」
ルパンが男の顔を覗き込む。
確かに見覚えのある顔に思えた。
次元も「たぶんどっかの有名人だろうな」などと曖昧な感想を漏らしている。
「む。この老人、まさか」
五右衛門が言うと同時に、玄関のチャイムが鳴った。
「やっべ、来客だあ~」
ルパンはジャケットの内ポケットから粘土のような物を取り出し、まだ目覚めない男の顔に貼り付けている。
変装するための顔型を作っているのだ。
別荘の主に成りすまし、来客を誤魔化そうといった魂胆らしい。
「こーりゃ短時間じゃ無理だぜ~。五右衛門、行ってくれ」
「な、なぜ拙者が!?」
慌てふためく五右衛門に、ルパンはてきぱきと変装を施していく。
使用人の振りをして、客を適当に追い返してくれ、ということのようだ。
「拙者、そういう仕事には向いてなかろう!」
「次元はヒゲがあるから、召し使いって感じにならないんだよ~ん。はい完成っと」
いつの間にか着替えまで完成している。
もう1度、チャイムが鳴った。
「さ、早く行った行った~!」
「し、しかし!」
非難空しく、五右衛門は部屋を追い出されてしまう。
おのれルパンめ。
拙者に行かせた理由はヒゲの有無ではなく、たちの悪い悪戯心からであろうに。
その文句に思いが至った頃はすでに遅く、五右衛門は既に玄関に到着していた。
「夜分遅くに失礼します! インターポールの銭形です!」
「な…!」
銭形と、彼が提示している警察手帳を見て、五右衛門は目を丸くした。
天候はさらに悪化したのだろう。
お馴染みの茶色いトレンチコートと、同じ色をした帽子には雪が積もっている。
それにしても、なぜ銭形が。
「突然の訪問に驚かれるのも無理はありません。実は私、かの有名な犯罪者、ルパン三世とその一味を追っておる者でして」
どうやら銭形は、五右衛門の変装に気づいてはいないようだ。
「先ほど、パトロール中の部下から、ルパンの愛車がこの山道に入っていったとの情報が入りました。そこで私も慌てて追って来たのですが、いやはや、なんとも、実は車がエンコしてしまい、立ち往生してしまいました。お恥ずかしい限りです」
恥かしいのは使用人に扮した今の自分である。
来客が銭形だと知っていれば、さすがのルパンも拙者に変装なんぞさせたりはしなかったものを。
引きつった愛想笑いを浮かべながら、五右衛門はそんなことを思った。
「ご迷惑とは存じますが、電話を拝借させていただきたい」
「あ、ああ。そういうことでしたら、こちらへ」
「はッ! ご協力、感謝します! 失礼します!」
銭形を招き入れ、五右衛門は思いを巡らせる。
電話はどこだ。
「なあに~!? 雪が酷くて助けに来られない~!?」
受話器に向かって、銭形は怒鳴っている。
確かに外の雪は酷くなっていて、吹雪に近い状態だ。
「う、む。そうか解った」
警部は諦めたらしく、受話器を置いた。
使用人らしく、五右衛門はテーブルにコーヒーをすっと置く。
居間と思わしき部屋に最初に案内できたことも、コーヒーの場所が簡単に解ったことも、五右衛門にとっては奇跡的な幸運だ。
銭形が「恐れ入ります」とソファに腰を下ろした。
「や、これはこれは、痛み入ります」
砂糖もミルクも入れず、コーヒーをすすると、銭形は申し訳なさそうな顔をした。
「実は、この天候のせいで、私は身動きが取れなくなってしまったようでして」
「どうされましたかな?」
ようやくルパンが変装を終えたようだ。
ドアが開き、別荘の主がニコニコと入ってきた。
来客が主の知人だと思っていたからこそ、ルパンは苦労して主に化けたのだが、それなのに訪ねてきたのが銭形だったとはさすがに計算外だったらしい。
「とっつぁ…! いえ、初めまして。どちら様でしょうか」
「ご主人でいらっしゃいますか! 夜分に失礼しております! インターポールの銭形です!」
そっと部屋を後にしようと五右衛門がドアノブに手をかける。
その瞬間、銭形は変装したルパンに対し、聞き捨てならない言葉を言い放った。
「あなたはもしや! 総理大臣!? 首相ではないですか!」
これにはルパンも五右衛門も目を見開いた。
「で、なんであんた、自殺なんかしようとしたんだい」
五右衛門が寝室に戻ると、別荘の主、いや、日本の総理大臣は意識を取り戻していた。
次元が話を聞いていたようだ。
「まさか、世界的に有名な大泥棒に命を救われるとはな」
総理はベットに横になったまま、宙をぼんやりと眺めている。
居間に残してきたルパンも心配だったが、こちらの事情も気になる。
五右衛門は変装を解いて、そこにあった椅子の上にあぐらをかいた。
「私は、この国を良くしようと思って政治家になったんだ。いや、私だけじゃない。政治家は誰もが、同じ目的で政治家になったんだ」
「そういうもんかねえ」
「他に何がある。ただ、政治家になった後が問題なのだよ。ちょっとした不正で金が儲かる。その味を占めてしまった一部の政治家は、いつしか最初の志を忘れ、私腹を肥やすためだけに、国民を苦しめるような立案ばかりしてしまうんだ」
「あんたも、そのクチなのかい?」
「バカな! その逆だと、私は自分では思っておるよ。だが、私は負けたんだ」
「悪徳政治家に、なんかされたのか?」
「国民の期待、政治家の理想。その間に立つだけでも充分な重圧だというのに、法律をいい方に変えるってだけで大騒ぎだ。細かいことは省略するが、今のままだと甘い汁が吸えるからだとか、法律を変えると色々な面倒があるからだとか、そんな保身ばかりを考える輩が多すぎる」
「つまるところ、おっさんよ。疲れたってことなんだろう?」
「まあ、そうだな。私は、この国を諦めてしまった。それは私にとって、自分の人生を諦めることと一緒なんだよ」
それで部屋には静寂が訪れた。
銭形が帰れないと困っていたので、ルパンも困り果てた。
雪のせいなので仕方もなく、銭形にはブランデーを勧めることにする。
酔い潰して眠らせようといった魂胆だ。
「いやしかし、たまたまお訪ねしたのが総理の別荘だったとは、実に驚きました」
「全くですな、銭形警部。偶然とは恐ろしいものです。ホント怖いわ~、こんな偶然」
ルパンはウーロン茶を隠し、すり替えながら飲んでいるので、全くのシラフだ。
相手が宿敵だということもあり、実に楽しくない。
「総理、実は、国民としてお願いがあります。聞いていただくだけで結構です。お耳に入れて、良いでしょうか」
さすがに酔ってきたらしい銭形は「一晩の宿をお借りする上に酒までご馳走になってしまい、こんなことを言うのもなんですが」などと、前置きが長い。
「お忍びでいらした別荘での休養を邪魔までして、こんなことを言うのも筋違いだとは思うのですが」
「いえいえ、とんでもない。言ってごらんなさい。手短にね~」
「それでは、遠慮なく」
銭形は、コホンと1つ、咳払いをした。
「私のおふくろは、もういい歳でして、週に4度は町医者に通っております。そこが不便な田舎でして、バスは1時間に1本、そこから老婆の足で40分もかかるのです」
「ほう、それは苦労されてますな」
「ええ。しかし、近年の医者不足によって、病院が1つ潰れてしまいました。おかげでおふくろは、いつも凸凹の道で、毎日ですぞ? 毎日3時間もかけて、別の病院に行かなければならなくなりました」
「それは酷い」
「全くです! しかも、おふくろが歩く道路は、全く舗装される気配がないのです。おふくろだけでなく、他のご老人が毎日歩く道なのにですぞ」
「そ~れは問題だなあ~、とっつぁん」
「なのに、全く活用されてない道路が何度も何度も工事されとります! これは、どういうことなんでありましょうか!」
「どっかの政治家が建設業者から裏金貰うための工事なんじゃない?」
「そうなんであります! 私は、おふくろや、人生の先輩であるご老人が苦労されているのを、見ていられないのであります!」
「その調子で、とっつぁん立候補でもすれば? 刑事なんて辞めちゃえ辞めちゃえ。そ~すりゃ仕事がや~りやすくなるぜ~」
「いえ! そういうわけにはいきません!」
ガタンと音がした。
銭形が急に立ち上がったので、ルパンは逮捕されてしまうのかと内心冷や汗をかく。
「どったの?」
「ルパンの逮捕は、私の夢なんです!」
「な、な~んでそこまで俺、じゃなくてルパンにこだわるのさ~?」
「人生の敵なんです、ルパンは! ルパンがいるからこそ、今の私が在るのです!」
「俺からしちゃあ~、迷惑なんだけんどなあ~」
「ルパンの盗みは犯罪ですが、芸術です! 奴は、尊敬できる敵なんであります!」
「そりゃどうもご丁寧に」
「尊敬できる敵を持てる男が、世界にどれだけいるでしょうか!? 私は、恵まれ者であります!」
「とっつぁん、飲みすぎだぜ? そろそろ寝な」
「いいえ、私は絶対に諦めません! ルパンを追うことが、私の成長に繋がるんです! ただ追うだけじゃない! 絶対に捕まえるぞといった意気込みを持って追うこと! それが尊敬する敵に対する礼儀なんであります! 奴を捕まえるまで、私はあ…」
「おやま、やっと寝た」
ソファに横になってしまった銭型に、ルパンはそっと毛布をかける。
「光栄だぜ、とっつぁん」
翌朝。
「総理が、緊急記者会見だってよ」
「何かとんでもない発言をするらしい」
「全国中継だってよ!」
各報道陣は色めきたって、会場の熱を上げていた。
総理大臣がマイクの前に立つだけで、カメラのフラッシュが一斉に焚かれる。
「皆さん、お集まりいただき、ありがとうございます。本日は、私の決意を表明するための場を設けさせていただきました」
フラッシュは相変わらず瞬いていたが、喧騒は総理の挨拶で完全に静まった。
報道陣やカメラを眺め回し、総理は腕をハの字にして机につく。
「教育問題、医療問題、他にも様々な問題を、この国は抱えています」
優しい眼差しが印象的だった総理の眼光は、今日に限って厳しかった。
「例えば教育。勉学に費やした若者の脳は活発ですが、暗記された知識というのは生活の上で本当に役に立つのでしょうか。私は大人になってから知った。勉強とは、やり方を変えるだけで非常に楽しいものなのだ。受験ストレスを感じてまでして無理矢理詰め込んだ知識は、その1%も実生活に活かされていないではないか!」
敵意とも取れる目線で、総理は会場全体を睨みつける。
「勉学の意味を思い出せ! 歴史を学ぶ理由は過去の出来事を繰り返さないように反省し、過去の出来事を見習うことにある! 学ぶべきはエピソードだろうが! 西暦何年に起きましたか? そんなマニアックなクイズは不要だ! 将来を担う子供たちを、勉強嫌いにさせる気か!?」
机をダンと叩く。
「どんなに時間がかかろうとも、学校で学ぶべき事柄をゼロから組み立て直す! 受験のシステムも同様! 作り直しだ! 暗記させるのではなく、思い出に残るような授業を! レベルを下げずに役立つ知識を! パズルゲームなどを取り入れて脳を活性化させるような柔軟な姿勢を教育は最初から取り入れるべきだったんだ!」
おお、と会場はわずかにざわめく。
総理は右手で、それを制した。
「まだ本題じゃない。今のはほんの一例だ」
一方、別荘では本物の総理大臣が椅子に縛りつけられ、テレビに向かって唸り声を上げていた。
思い返すのは昨夜、ルパンからの一言だ。
「た~まげたぜ~。あんた、日本の総理大臣なんだってなあ~。自殺の動機、次元から聞いたぜ~? どうせ死ぬんだったら、ちょっくら拉致させてくんない?」
そこからはもう問答無用だった。
テレビを点けて目の前に置いたのもルパンだ。
何をする気かと思えば、この記者会見である。
必死にもがき、脱出を試みるが、世界的な大泥棒の縛り方は完璧だった。
「んー! んー!」
体を激しく揺らしても、椅子と床とがガタガタと音を立てるだけだ。
拘束が解けそうな気配は微塵もない。
記者会見の会場で、総理、いや、総理大臣に扮したルパンは水を一口飲んだ。
「問題はまだまだある! 今、我々が使っている法律もそうだ! 半世紀前の法律が、流動する時代についてこられるものか! これらも全て見直す! パソコンや携帯電話が普及するよりも前に作られた法律を、どうして今まで放っておいたのか、これはもはや犯罪だ! とても国のことを考えているとは思えん! 変えてやる!」
おお!
報道陣からは、さっきよりも大きな声が上がった。
「変えるだけじゃない! 10年に1度は見直せるよう、作り変えを前提とした法を作らねば無意味だ! さらに!」
再び、殺気の篭った目で、ルパンは会場を見渡す。
総理からの怒気に押されたかのように、報道陣は押し黙った。
「医療関係に予算を回す一方で、不正を働く政治家を厳しく取り締まるような機関を設ける。これ以上、国民の血税を無駄にするものか! 贅沢暮らしに慣れちまった国会議員は、初心を取り戻せ! お前らが欲しかったのは給料じゃなかっただろうが! 無駄な道路こさえて裏金貰うようになっちまった奴は、俺が直接クビにしてやる! 2度と政治に関わるな!」
本物の総理はいつしか、拘束を解こうと努力することを忘れ、黙ってブラウン管を眺めていた。
目には、ルパンと同じような熱意が宿り始めている。
「投票に行かない若者が増えるのも道理だ。政治に興味がないからだ。それは国民の怠慢というより、興味を持ってもらうような工夫をしない我々の責任である! そういった根本も含め、俺が! 俺たち政治家が変えてやる!」
記者の何名かは既に写真を撮ることすら忘れている様子だ。
「まだまだ言い足りないが、今回は以上です。細かいことは追って取り決めることになる。今日のことは一政治家の、決意表明として覚えておいていただきたい。ご清聴、ありがとうございました」
媚びる様子もなく、堂々とルパンは頭を下げた。
「あの! 最後に1つ! 国民の皆さんに何か一言!」
記者の1人が声を張り上げた。
ルパンは再び、カメラを睨みつける。
その視線は全国各地に、そして本物の首相にも届いている。
「確かに今、不正を働く政治家は少なくないだろう。そんな輩が1人でもいるだけで、政治という言葉は矛盾した意味を持ってしまう。今日より、当たり前の政治家だけで国会を形成し、改めて国民全員を助けてみせる! 諸君にも、どうすれば皆に良い暮らしができるようになるか、アイデアを提供していただきたい。必ず全てに目を通す!」
そしてルパンは、さらに声を張り上げた。
「政治家を舐めるな! 絶対に助けてやる! 俺たちは同じ国で産まれ、同じ言葉で育った仲間だろうが!」
言い捨てて一礼をし、会場を後にしようとルパンは歩き出す。
報道陣の中には、銭形の姿もあった。
敬礼をし、真っ直ぐにルパンを直視している。
「総理! 昨日は大変失礼いたしました! 先ほどの会見、感動させていただきました!」
「にひひ。おふくろさん、大事になあ~、とっつぁん」
「え? ああーッ!」
別荘では、総理がようやく椅子から開放されていた。
彼はどこか吹っ切れたような表情を浮かべている。
総理は手首をさすりながら、ルパンに向かって鼻を鳴らせた。
「全く、大変なことをしてくれたな、君は。言いたい放題言いおって。会見を開いたはいいが、実際にどうしたらいいものか」
「アイム、ソーリ~。なんつって!」
「礼は言わんぞ」
「こ~れも景気のためさあ~。お金持ちが増えれば、ま~た日本で色々盗めるかんなあ~」
「税金だけは盗むなよ」
「わ~かってるって~。そこは泥棒の仕事じゃないんだなあ~。お前さんも、俺を見逃しても税金泥棒だけは見逃すなよ~?」
「おいルパン!」
窓を見張っていた次元が声を上げる。
「銭形の旦那、来やがったようだぜ!」
言われてみれば確かに、パトカーのサイレンがわずかに聞こえている。
「やっべ、やっぱさっき正体バラさなきゃよかったぜ~」
「ルパン君!」
総理が、駆け出そうとしたルパンを呼び止める。
「本当に、なんと言ったらいいのか」
「礼は言わないんだろ~? 後の仕事も大変だぜ~? じゃ、踏ん張ってな~!」
窓を開けると、ルパンが、次元が、五右衛門が、それぞれの座席に飛び乗っている。
エンジンがかかり、パトカーとは正反対にルパンの愛車が走り出した。
「ルパン君!」
サイレンやエンジン音に負けぬよう、総理は声を張り上げる。
「政治家を舐めるな! 絶対にやってみせるぞ!」
「上等よ~! あと、ここの庭、柿の木の下を掘ってみ~? むか~しむかしの税金泥棒から掠め取った、今となってはクリーンな金が埋まってるぜ。とっつぁんの故郷に病院の1つでも建ててくんな~! じゃあなー!」
ルパン一味が去り、やがてパトカーの集団が別荘の前を通り過ぎる。
「今日という今日こそ、ルパン逮捕だー! 絶対に逃がさんぞ! 地の果てまでも奴を追え! 追うんだー!」
パトカーの一団を見送ると、総理はやがて大きく深呼吸をした。
昨日の雪とは打って変わって、外は見通しの明るい晴天だ。
実は、先に約束を果たしたのは、彼女のほうだった。
同志からの報告を読んだときは自分のことのように嬉しくて、思わず電話を手にしたほどだ。
メールには、こうあった。
「この前の約束覚えてますか? 自分が今一番書きたい曲、完成しましたよ! めささんもちゃんと、ルパン完成させてくださいよー」
リアルの友人にさえ滅多に返信できないにもかかわらず、それにはさすがに返事を打った。
直接お祝いを言いたくて、電話までする始末だ。
我ながら大喜びである。
もしもし、メールありがとう!
やったじゃん!
俺もルパンの話、頑張るよ!
正直、未だに何も思い浮かばないけど。
というわけで、俺なりに頑張ってみたよ。
いかがでしたか?
今回の作品は、彼女に。
そして駆け出しのクリエイターたち全てに捧げたいと思います。
長文にもかかわらずお読みいただき、ありがとうございました。
私、ルパンが大好きなのですが、そのイメージを全く壊さず小説が出来上がっててマジで感動しました(*^^*)
最後に、総理とシンガーさん!頑張って下さい!!
勿論、めささんも!!
『夢見町の史』様はこのブログ以前のサイトの頃から足を運ばせて頂いていました。いつも楽しませてもらってます。
今回、あまりにも感動した為、コメントさせて頂いちゃいます(笑)
めさ様の描くルパンが凄いルパンらしくて、素敵でした(笑)
本当に、このルパンを映像で見てみたいです。
では、長文失礼します。
政治とルパンの組み合わせなんて・・・。
思いつかなかった分感動しましたっ。
政治家については正直同様にマイナスイメージしかもてませんでしたが、
ルパンを読んでこれが理想なのかなって思いましたッッ(・U・)
途中本当のルパンを読んでいるような気分になりましたこれからも頑張って下さい
それと次回のオフ会は是非参加したいです
小説家を目指す仲間は大抵、「同人誌みたいに他作品のキャラクターを用いて随筆する」といった腕磨きをしていると、直接話を伺ったことがあるんですよ。
それは、俺にはない考え方でした。
なんか、どうしよう。
俺も同じことをしなくてはいけない空気じゃないか?
でも自分、オリジナルでないと気が済まない性分だしなあ。
人に流されてしまい、そんな迷いを持っちゃいましたよ。
仮に書くとしたら、何の作品をベースにしたらいいんだ?
と考えて唯一浮かんだのが、ルパン三世なのでした。
手短なシナリオを書く最初のきっかけは、イージーバレルのマスターです。
「将来といわず、今、書いてみてもいいんじゃない?」
「あ。確かに」
ぶっちゃけた話、今も「物語を考える」ことに対してスランプを感じてはいるんですけども、シンガーソングライターの友人と同じく、きっかけを与えてくださったマスターにも大感謝です。
さて。
自分なりの反省点を、ここに書かさせていただきますね。
今回のルパンには不二子ちゃんどころか、女性キャラが一切登場しません。
それどころか、敵キャラさえいない始末です。
派手な銃撃戦や戦闘シーンもないし、怪盗なのに盗みも働きません。
最大の難点は、読み手にある程度の意識が必要というか、簡単な話、年齢制限があるのです。
小さな子供にも楽しめなければルパンらしくないので、次回はもっとオーソドックスな展開を心がけようと思います。
また、ここで頂いたコメントで、数点削除させていただいたものがあるんですよ。
雰囲気が悪くなり得て、議論が起こりそうで、レスした人が他者からの攻撃を受けてしまいそうだと判断したためです。
どうぞご了承ください。
批評などありましたら、その場合はお礼の返信を致しますので、コメント欄ではなく、是非メールでお願いします。
お手数かけて、すみません。(メールはオフ会告知の記事から送信することができます)
長くなりましたが、あとがきは以上です。
まだまだだけど、もっと成長して、どんなに時間がかかっても、いつか必ず過去の名作を彷彿させるようなルパンを手がけてみたいと思います。
まずはスランプ脱出ですね。
長い目で、年単位になるかも知れませんが、待ってやってください。
それまでは、再びオリジナル作品をアップし続けたいと思います。
お読みいただき、またコメントまで残していただき、本当に大感謝です。
皆さん!
ありがとうございました。
もし見てたら、ケータイ壊れてデータ飛んじゃったから、メールおくれ。
周囲を元気づけるようなエネルギーを、今年もガンガン発揮しちゃってな。
ハッピーバースデイ!
次元や五衛門の声まで思い出しました。
先日、
毎度の事、笑いのエネルギーを頂こうと訪ねたワタクシ、ハートは下げ下げでした。
いつものように、読み始め、「あ、今日は違う」と気付き、こんな日に読んではいけない、と本日、再度お邪魔しました。
消されたコメントあるようですね。
確かに、ある種デリケートな設定なので色々あるかもしれません。
でもそれすら~!!
めささんの人気の反映!(^-^)g"
細かい「事実」にこだわるより、伝えた真実に感服です(^-^)/
本日は勇気をありがとうございました!
シンガーソングライターの彼女様がいたから、作家志望のめさ様このルパン。
私も絶対、頑張りますオ~~~!!!
はっ
また長々と失礼しました。