夢見町の史
Let’s どんまい!
2010
April 30
April 30
will【概要&目次】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/207/
<そこはもう街ではなく・5>
この日の上空を表現するのに、雲1つない晴天という言葉は間違ってはいない。
それでも薄く白いもやが空をわずかに霞ませている。
そのことに最初に気づいたのは涼だった。
「大地、あれ、煙じゃね?」
大地と涼の一行は、無人だった和也の家を後にし、別の友人宅へと歩を進めているところだ。
その間、先ほど出遭ったような低身長の白いロボットと2度ほど遭遇したが、どちらも大地がその機能を完全に停止させている。
いつ折れてもおかしくない大地の木刀は、今は涼が持っていて、涼がそれまで持っていた持参のバールはしばらく大地が身につけることになっていた。
敵と戦うことになる主戦力が大地だからだ。
車1台がやっと通れる狭い道路の両脇には、今や新築の一軒家は姿を消して、昔ながらの木造アパートだったりだとか、納屋のような古びた住居たちが並んでいる。
十字路を越えると道は緩やかに上昇し、じき急な坂道となって通行人の前に立ち塞がる。
小学生の頃、「ここを自転車で1度も降りずに登りきった奴は勇者」などと言われていた坂だ。
その坂に差しかかったところで、涼が上空の異変に気づく。
「煙?」
大地が問うと、涼は「今見えたんだよ」と前方の空を指差した。
人差し指が示す方向に、大地は視線をやって目を細める。
「なんもないけど?」
「よく見てろって。風が強いからすぐかき消されちゃったけど、今のは煙だった。たぶんまた見える」
坂を登りきるとそこは団地で、このまま真っ直ぐ行けば市内で最も広い冬空公園が姿を現すはずだ。
目指すべき由衣の家はここを左に曲がって夢見中学校に向かう方向なのだが、煙というのが気になって、大地たちは直進することにする。
「あ! ホントだ!」
涼の言う通りだった。
確かに前方には白煙が上がっており、それが強風のためすぐに散ってしまっている。
おそらく何かが燃えているのだろう。
ということは、この無人の街で、何者かが火を焚いているのかも知れない。
大地と涼は煙の方向、すなわち冬空公園へと足を早めた。
勇みながら、大地は思う。
運動不足とはいえ、今日は異常に息が切れる。
こんな体力で、この先何かあったとき、俺は戦えるのだろうか。
公園の正面入口に到着する。
地面には石のタイルが広げられており、その先には腰ぐらいの高さに組まれた石垣が並んでいる。
普段だったら日中である今頃、キャッチボールをする子供やら、犬の散歩をしている住人やら、ベビーカーを押す母親の姿が望めるはずだが、今はやはり誰もいない。
風の渦巻く音だけが大地たちを囲んでいる。
石垣の向こうは小高い丘になっていて、てっぺんには大きな杉の木が1本と林の木々が立ち並んでいる。
白煙はどうやら、その林辺りから立ち昇っているようだ。
「大地、誰かいるっぽいぞ!」
最初に人影を見たのは、眼鏡をかけている涼だ。
「2人ぐらいいる!」
大地はそこで歩みを進めつつも大声を出す。
「おーい! どなたですかー!? おーい!」
敵か味方か解らぬ以上、近づくよりも先に相手の反応を見ておきたかった。
大地の声は強風に負けず、丘の上まで届く。
すると、男と女の声がかすかに、ほぼ同時に返ってきた。
「だいちー!」
「だいちかー!?」
そのように聞こえた。
声を聞き取ったらしい涼が目を輝かせる。
「カズと由衣じゃねえ?」
「確かに」
丘の上の人物の声は、昔ながらの友人である和也と由衣の声に確かに似ていた。
遠目だが、服装の色合いや体格なども共通しているように見える。
「マジかよ」
涼が嬉しそうに駆け出そうとした。
「あいつらも街に残ってたんだ」
しかし素早く、大地は涼の袖を掴んで彼の行動を制する。
「待て涼」
「なんだよ」
「あいつら、本当にカズと由衣か?」
「見りゃ解るだろ。俺の眼鏡はお前の裸眼より度がいいぞ」
「そうじゃない」
大地は慎重だった。
思い返すは、小夜子の家での出来事だ。
「あいつらも小夜子ンときみてえに、偽者なんじゃねえだろうな?」
涼は声に出さず、「あっ!」と口を開く。
<万能の銀は1つだけ・5>に続く。
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/207/
<そこはもう街ではなく・5>
この日の上空を表現するのに、雲1つない晴天という言葉は間違ってはいない。
それでも薄く白いもやが空をわずかに霞ませている。
そのことに最初に気づいたのは涼だった。
「大地、あれ、煙じゃね?」
大地と涼の一行は、無人だった和也の家を後にし、別の友人宅へと歩を進めているところだ。
その間、先ほど出遭ったような低身長の白いロボットと2度ほど遭遇したが、どちらも大地がその機能を完全に停止させている。
いつ折れてもおかしくない大地の木刀は、今は涼が持っていて、涼がそれまで持っていた持参のバールはしばらく大地が身につけることになっていた。
敵と戦うことになる主戦力が大地だからだ。
車1台がやっと通れる狭い道路の両脇には、今や新築の一軒家は姿を消して、昔ながらの木造アパートだったりだとか、納屋のような古びた住居たちが並んでいる。
十字路を越えると道は緩やかに上昇し、じき急な坂道となって通行人の前に立ち塞がる。
小学生の頃、「ここを自転車で1度も降りずに登りきった奴は勇者」などと言われていた坂だ。
その坂に差しかかったところで、涼が上空の異変に気づく。
「煙?」
大地が問うと、涼は「今見えたんだよ」と前方の空を指差した。
人差し指が示す方向に、大地は視線をやって目を細める。
「なんもないけど?」
「よく見てろって。風が強いからすぐかき消されちゃったけど、今のは煙だった。たぶんまた見える」
坂を登りきるとそこは団地で、このまま真っ直ぐ行けば市内で最も広い冬空公園が姿を現すはずだ。
目指すべき由衣の家はここを左に曲がって夢見中学校に向かう方向なのだが、煙というのが気になって、大地たちは直進することにする。
「あ! ホントだ!」
涼の言う通りだった。
確かに前方には白煙が上がっており、それが強風のためすぐに散ってしまっている。
おそらく何かが燃えているのだろう。
ということは、この無人の街で、何者かが火を焚いているのかも知れない。
大地と涼は煙の方向、すなわち冬空公園へと足を早めた。
勇みながら、大地は思う。
運動不足とはいえ、今日は異常に息が切れる。
こんな体力で、この先何かあったとき、俺は戦えるのだろうか。
公園の正面入口に到着する。
地面には石のタイルが広げられており、その先には腰ぐらいの高さに組まれた石垣が並んでいる。
普段だったら日中である今頃、キャッチボールをする子供やら、犬の散歩をしている住人やら、ベビーカーを押す母親の姿が望めるはずだが、今はやはり誰もいない。
風の渦巻く音だけが大地たちを囲んでいる。
石垣の向こうは小高い丘になっていて、てっぺんには大きな杉の木が1本と林の木々が立ち並んでいる。
白煙はどうやら、その林辺りから立ち昇っているようだ。
「大地、誰かいるっぽいぞ!」
最初に人影を見たのは、眼鏡をかけている涼だ。
「2人ぐらいいる!」
大地はそこで歩みを進めつつも大声を出す。
「おーい! どなたですかー!? おーい!」
敵か味方か解らぬ以上、近づくよりも先に相手の反応を見ておきたかった。
大地の声は強風に負けず、丘の上まで届く。
すると、男と女の声がかすかに、ほぼ同時に返ってきた。
「だいちー!」
「だいちかー!?」
そのように聞こえた。
声を聞き取ったらしい涼が目を輝かせる。
「カズと由衣じゃねえ?」
「確かに」
丘の上の人物の声は、昔ながらの友人である和也と由衣の声に確かに似ていた。
遠目だが、服装の色合いや体格なども共通しているように見える。
「マジかよ」
涼が嬉しそうに駆け出そうとした。
「あいつらも街に残ってたんだ」
しかし素早く、大地は涼の袖を掴んで彼の行動を制する。
「待て涼」
「なんだよ」
「あいつら、本当にカズと由衣か?」
「見りゃ解るだろ。俺の眼鏡はお前の裸眼より度がいいぞ」
「そうじゃない」
大地は慎重だった。
思い返すは、小夜子の家での出来事だ。
「あいつらも小夜子ンときみてえに、偽者なんじゃねえだろうな?」
涼は声に出さず、「あっ!」と口を開く。
<万能の銀は1つだけ・5>に続く。
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