夢見町の史
Let’s どんまい!
March 02
めささんがあたしの試合を見に来てくれて、その際に知らないプロレスファンに捕まってしまったことは、先日の彼に日記にあった通りだ。
出来れば試合内容についても触れてほしかったけど、まあいいだろう。
「それにしても、めささんってさ、よく知らない人に声かけられるよね」
彼は深夜に突然知らない人に家を訪ねられたばっかりだし、あたしは率直にそう思う。
「なんかそういう変なオーラ出てるんじゃない?」
「いやね? 実は俺ね?」
めささんは、あたしの試合には間に合ったけれど、最初の試合から観戦していたわけではなかった。
道に迷って遅れてしまったのだ。
「俺、迷子になってるときもさあ、中国人の人に捕まっちゃって、それでさらに遅くなっちゃったんだよねえ」
新宿の街で何すれば中国人に捕まることができるのだろうか。
スナック「スマイル」のお客さんたちも驚きの表情だ。
「どんな理由で中国人に!?」
「それがですね?」
めささんが道端で携帯電話を開いて地図を呼び出し、それを色んな角度で眺めながら困っていると、いきなり見知らぬ男性に何事かを言われたらしい。
「その言葉が中国語っぽかったし、顔もなんか肉まん好きそうに見えたし、あとカンフー上手そうだったから中国人だと思ったんだけどね? その人、俺に一生懸命に自分のケータイを見せて何か言ってんですよ」
めささんは急いでいたので「わかんない」と何度かは言ったけど、冷たくあしらったりはしなかったらしい。
「もし困ってる人だったら、冷たくしたら可哀想じゃん。それにしても言葉が通じなくて困った」
困ってる人に困らされてどうする。
「俺、めっちゃ急いでたんだけどさ、ちゃちゃっと彼の言いたいことを理解してあげることにしたんだ。彼の態度が申し訳なさそうな感じじゃなくて、なんか普通ってゆうか、堂々としてたんだけど、向こうの人は困ったときは態度に出さずに助けてもらうなんて風習があるのかも知れない」
なにその想像力。
「でね? その人のケータイ、090から始まる電話番号が表示されてんの。ジェスチャーからして『君の電話機でこの番号をプッシュしてくれ』ってことらしい」
それで、その番号にかけてあげちゃったの!?
「ううん、かけてないよ?」
ああ、ならいいんだけど。
「番号はプッシュしたんだけど、どうせかけたって通話相手に日本語、たぶん通じないでしょ? だから俺の電話を中国人の人に貸してあげた」
マジで!?
「マジで。その人、5分ぐらい俺の電話使って喋ってたよ~。俺、急いでんのにさあ」
なんで電話貸すの!?
「今の俺ぐらい、めっちゃ流暢な中国語で喋っていたアル」
オメーのそれは日本語だよ!
なんで電話、知らない奴に貸すんだよ!
「遅刻気味で急いでるときの5分って、ホント長く感じるよねえ。俺、焦っちゃったよ」
いいから質問に答えろ!
なんで電話貸すの!
国際電話とか、とんでもない通話料かかるかも知れないじゃん!
「大丈夫! ケータイの番号だった!」
そのケータイが海外にあったらどうすんの!
「なるほどね!」
喜ぶな!
めささんしかも、通話の内容、わかんないんでしょ!?
「今かけてるこの番号で登録しておいて」みたいなこと話してたら大変だよ!?
「おおー! その手があったか!」
オメーのさっきの変な想像力、どうしてこっち方向には使わねえんだよ!
「でも困った人かも知れないよ?」
困った奴はお前だよ!
横浜生まれのクセになんで田舎者!?
「じゃあさじゃあさ、もし来月にとんでもない請求が来たらさあ」
来たら?
「みんなに教えてあげる」
あ、それは教えてほしい。
来月、めささんの請求書が楽しみだ。