夢見町の史
Let’s どんまい!
February 08
できれば毎日通いたいと常に思っている中華料理屋さんに、久々に足を踏み入れる。
ここは安くて美味しいし、友人たちの溜まり場みたいにもなっているのだけれど、自宅からは少し離れているのでなかなか普段から訪れることができないでいた。
「あ、めさ君、いらっしゃーい!」
「いやあ、ご無沙汰しちゃってすみません」
「あれ? 今日、カッコイイじゃん」
言われてみれば俺は今、スーツの上にロングコートを羽織っている。
いつもここに来るときは私服なので、店側からすれば新鮮なのだろう。
俺は今、夜はスナックに勤めているけれど、友人に声をかけてもらったことがきっかけで、日中は営業の仕事をしている。
そのようなことを俺は手短に説明すると、女将さんは目を丸くした。
「営業って、何の?」
本当はオール電化や太陽光発電の営業なんだけど、それを今言ったら「設置料や工事費がかかるって印象だけどそんなことはない」だとか「ガス代が無くなる上に電気料金まで安くなるの。なんでかというとね?」などと、仕事をしてしまいそうだ。
やたら自分のところで扱っている商材を勧めてしまっては、煙ったがられるだけだろう。
お客さんたちも食事をしていらっしゃることだし、ここは誤魔化すことにする。
「幸運の壷を売っています」
「あ、そういうの知ってる!」
カウンターでご飯をたべていたおばちゃんが、何故か喰いついてきた。
「なんかまえ、幸福を招く水晶っての勧められたことがある!」
「いやあ、それは買わなくて正解ですよ」
俺はわざとらしく、顔をしかめて見せた。
そういう業者さんは胡散臭いですよ。
まず効果は期待できませんね。
それに比べてうちの壷なんですが、これから来る全ての不幸を吸収してくれますんで効果は絶大ですよ。
通常だったら200万するんですけれど、まあ未来のことを考えれば全然安いほうですけれどね?
せっかくの出会いなんですし、特別に180万で提供して差し上げますよ。
よかったですね。
「あはははは!」
よかった、冗談を冗談だと思ってもらえて。
どっかの適当な壷を無駄に売りつけてしまうところだった。
というか、結局何かをお勧めするのなら、最初から本当のことを言えばよかったんじゃないのか俺は。
なんか損した気分だ。