夢見町の史
Let’s どんまい!
January 31
夜中の1時半ぐらいに、いきなり知らない人がうちに来た。
その日は仕事が休みで、俺は夜食を作ろうと台所で色々やっていた。
すると突如、すぐそばの玄関からノックの音が。
ひい。
自分が女子だったら絶対に開けないところだけれど、俺は幸い男の人だ。
誰なんだろうと思いつつ、ドキドキしながらドアを開ける。
そこにはスーツ姿の青年が、申し訳なさそうに立っていた。
ひい。
青年はおずおずと口を開く。
「こちらの方、ご存知ですか?」
こちらの方も何も、オメー1人じゃん!
俺には見えない何かとご一緒だったんですか!?
ひい。
と、思ったけれど、俺が開けた玄関ドアの向こう側にもう1人誰かがいるらしい。
覗き込むようにしてドアの反対側に顔を出すと、そこにはなかなか派手な扮装のおばちゃんが立っている。
ひい。
見知らぬおばちゃんは青年に対し、何故か俺のことを紹介した。
「うちの亭主です」
なんだってェ!?
どうやら俺は自分でも気づかないうちに結婚していたらしい。
しかも、そこそこご年配の方と。
「本当ですか?」
と、青年。
おばちゃんは堂々と「ええ、亭主です」などと断言していらっしゃる。
俺に目で合図までしてくる始末だ。
「ね? あなた」
ひい。
これは一体、どういうストーリー展開なのだろうか。
現状から瞬時に推察をする。
おそらく何らかのトラブルが発生し、おばちゃんが「じゃあ自宅まで一緒に来てください」みたいな言い逃れでもしたのだろう。
そこで、明かりの点いている俺ン家に目をつけたと考えればしっくりくる。
青年の服装と物腰から察するに、彼はおそらく飲み屋関係の仕事なのだろう。
どうやら店と客の料金トラブルであるらしい。
おばちゃんの手馴れたような態度を見ると、彼女はこういったことを何度もしていそうだ。
つまり、お金を持たずに飲み屋に入り、会計時に「次回お払いします」とか言いつつ逃げてしまう、いわば食い逃げの常習犯である可能性が高い。
初見の客にツケをするわけにはいかない店側からすれば、おばちゃんの自宅まで行って代金を支払ってもらうことは当然だ。
さてさて、どうしよう。
おばちゃんに話を合わせ、かばってあげたい気持ちもあるけれど、そうなれば俺が飲み代を立て替えねばならない。
自分の財布の中身を思い出すと、なんだか悲しくなってきた。
おばちゃんには悪いけど、俺は貧乏なのだ。
「彼、うちの亭主です」
「すみません、違います」
なんで俺が謝っているのか。
とにかく「この人を知りません」と青年には伝えておいた。
「夜分に本当にすみません!」
何度も頭を下げる青年に「いえいえ」と告げ、俺は玄関を閉める。
ちょっと気になったので、そのままドアに耳を近づけ、聞き耳を立てる。
「じゃあ、あたしを出入り禁止にしていいですから」
「いやいや、出禁にすればいいとか、そういうんじゃなくて、お代を…」
ひい。
びっくりするぐらい、俺の推察は当たっていたらしい。