夢見町の史
Let’s どんまい!
2009
August 15
August 15
何やら恐ろしげなタイトルですが、内容はちっとも怖くないのでご安心を。
高校時代のお話です。
俺たち空手道部は日曜の午後、電車の中でずっと談笑に熱を上げていました。
試合の帰りだったので張り詰めていた空気も緩和され、くつろぎモードです。
車内はガラガラに空いていて、俺たちは全員着席する事に成功していました。
少し広めに感じるその車両には、俺たちの他は中年の男性が1人。
「おい。妬むなよ」
突然、その男性が言い放ちました。
しかも何故か真っ直ぐ俺に向かって。
俺は聞き間違えたのかと思い、「え?」と訊くと、そのおっさんは「妬むなよ」と親切にリピートしてくださいました。
聞き間違いではないようです。
嫌すぎる。
しかもこのおっさん、主語がありません。
笑いのあった風景は、一瞬で凍りつきました。
おっさんはもう1度、
「妬むなよ」
すっかりお馴染みになったフレーズを口にします。
なんで変な人って、いつも俺に声をかけてくださるのでしょうか。
おっさんは立ち上がり、再び口を開きました。
「俺は妬まれてる。社会が俺を妬んでるんだ」
おじ様?
言ってることの規模がもの凄く大きいです。
何にせよ、俺だけを見て言うのはやめていただけませんでしょうか。
他にも部員がいっぱいいるじゃないですか。
彼らにも是非。
おっさんはそんな俺からのテレパシーを見事に全て受信しないと、再びイスに腰かけました。
さっき立ち上がったのは何のためだったのでしょうか。
しかし1つ気になったことが。
このおっさん、片足を引きずっているのです。
怪我をしているのは明白でした。
おっさんは痛めていると思われる自分の右足を示し、また俺を見ます。
「コレはな、さっき社会の怨念にやられたんだ」
マジで!?
そんな抽象的な相手に、よくここまで物理的にやられたもんです。
いいから早く病院に行きなさい。
2つの意味でな。
あと、そろそろ矛先を俺以外の人に向けてみませんか?
次の駅で降りたいとか思いません?
「俺は戦ってるんだよ、社会の怨念と!」
俺のテレパシーはまたしても綺麗にシカトされていました。
この辺りから空手部員の何割かは、必死に笑いをこらえている様子。
こいつらが何を面白がっているか、俺には手に取るように解ります。
「なんて強大な敵と戦ってるんだ、このオヤジー!」
「俺、初めて見たよ。こんな不思議な絡み方!」
「駄目だ! たまらん!」
「打倒、社会の怨念!」
「めさにもっと絡め!」
仲間達からの熱い応援に、おっさんは応えます。
「社会が俺を妬むから、俺はさっき、社会の怨念と戦ったんだ!」
さっき、戦った?
具体的に、何とどうやって戦ったのさ!?
おっさんは足をかばいながら、再び立ち上がりました。
「俺が町を歩いていたら、車が急に来た! 俺はその車とぶつかったんだ!」
車に轢かれただけじゃねえか!
怨念、まさかの無関係!
電車じゃなくて救急車に乗ってくれ。
あとあなた、誰とも戦えてないです。
一方的に轢かれただけです。
「俺は弾き飛ばされた! こういう風に!」
痛い足で無理して座席にダイブするおっさん。
誰かこの人を止めてくれ。
そろそろ俺も限界みたいだ。
笑いたい。
何もかも忘れて大声で笑いたい!
素直に「車に轢かれた」と言わないこのおっさんは、その後も延々と社会の怨念について語り、とある駅であっさりと降りてしまいました。
「お前も気をつけるんだぞ!」
彼は最後に、そう言い残してくださいました。
はい、車には気を付けます。
おっさん、あれから足の具合はいかがですか?
社会の怨念とはまだ戦っているのでしょうか?
あなたが電車を降りたあと、みんなで心配していたんですよ。
「あの調子だと、また別の車に轢かれてそうじゃねえか?」
皆さんも、車には充分気をつけてくださいね。
もしかしたらそれは、社会の怨念かも知れません。
高校時代のお話です。
俺たち空手道部は日曜の午後、電車の中でずっと談笑に熱を上げていました。
試合の帰りだったので張り詰めていた空気も緩和され、くつろぎモードです。
車内はガラガラに空いていて、俺たちは全員着席する事に成功していました。
少し広めに感じるその車両には、俺たちの他は中年の男性が1人。
「おい。妬むなよ」
突然、その男性が言い放ちました。
しかも何故か真っ直ぐ俺に向かって。
俺は聞き間違えたのかと思い、「え?」と訊くと、そのおっさんは「妬むなよ」と親切にリピートしてくださいました。
聞き間違いではないようです。
嫌すぎる。
しかもこのおっさん、主語がありません。
笑いのあった風景は、一瞬で凍りつきました。
おっさんはもう1度、
「妬むなよ」
すっかりお馴染みになったフレーズを口にします。
なんで変な人って、いつも俺に声をかけてくださるのでしょうか。
おっさんは立ち上がり、再び口を開きました。
「俺は妬まれてる。社会が俺を妬んでるんだ」
おじ様?
言ってることの規模がもの凄く大きいです。
何にせよ、俺だけを見て言うのはやめていただけませんでしょうか。
他にも部員がいっぱいいるじゃないですか。
彼らにも是非。
おっさんはそんな俺からのテレパシーを見事に全て受信しないと、再びイスに腰かけました。
さっき立ち上がったのは何のためだったのでしょうか。
しかし1つ気になったことが。
このおっさん、片足を引きずっているのです。
怪我をしているのは明白でした。
おっさんは痛めていると思われる自分の右足を示し、また俺を見ます。
「コレはな、さっき社会の怨念にやられたんだ」
マジで!?
そんな抽象的な相手に、よくここまで物理的にやられたもんです。
いいから早く病院に行きなさい。
2つの意味でな。
あと、そろそろ矛先を俺以外の人に向けてみませんか?
次の駅で降りたいとか思いません?
「俺は戦ってるんだよ、社会の怨念と!」
俺のテレパシーはまたしても綺麗にシカトされていました。
この辺りから空手部員の何割かは、必死に笑いをこらえている様子。
こいつらが何を面白がっているか、俺には手に取るように解ります。
「なんて強大な敵と戦ってるんだ、このオヤジー!」
「俺、初めて見たよ。こんな不思議な絡み方!」
「駄目だ! たまらん!」
「打倒、社会の怨念!」
「めさにもっと絡め!」
仲間達からの熱い応援に、おっさんは応えます。
「社会が俺を妬むから、俺はさっき、社会の怨念と戦ったんだ!」
さっき、戦った?
具体的に、何とどうやって戦ったのさ!?
おっさんは足をかばいながら、再び立ち上がりました。
「俺が町を歩いていたら、車が急に来た! 俺はその車とぶつかったんだ!」
車に轢かれただけじゃねえか!
怨念、まさかの無関係!
電車じゃなくて救急車に乗ってくれ。
あとあなた、誰とも戦えてないです。
一方的に轢かれただけです。
「俺は弾き飛ばされた! こういう風に!」
痛い足で無理して座席にダイブするおっさん。
誰かこの人を止めてくれ。
そろそろ俺も限界みたいだ。
笑いたい。
何もかも忘れて大声で笑いたい!
素直に「車に轢かれた」と言わないこのおっさんは、その後も延々と社会の怨念について語り、とある駅であっさりと降りてしまいました。
「お前も気をつけるんだぞ!」
彼は最後に、そう言い残してくださいました。
はい、車には気を付けます。
おっさん、あれから足の具合はいかがですか?
社会の怨念とはまだ戦っているのでしょうか?
あなたが電車を降りたあと、みんなで心配していたんですよ。
「あの調子だと、また別の車に轢かれてそうじゃねえか?」
皆さんも、車には充分気をつけてくださいね。
もしかしたらそれは、社会の怨念かも知れません。
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