夢見町の史
Let’s どんまい!
August 16
空手道部で同期だった仲間が陸上自衛隊に入隊を果たしました。
彼の名は、ここでは仮にピン君としておきましょうか。
酒を飲みながら、ピン君が自衛隊内の話をしてくれます。
「自衛隊の練習の1つでさ、戦争のシュミレーションみたいなこともやるんだ」
「へえ! カッコイイじゃん! 具体的にどんなことすんの?」
彼の説明によると、隊員たちはそれぞれ敵と味方チームに分かれ、本物の火器に光線銃のセンサーを付けた武器を使用し、撃ち合うのだそうです。
引き金を引くと目に見えない光線が発射され、相手に当たったらピコーンとランプが点いて死亡か負傷かをコンピュータが判定してくれるとのことです。
参加人数が多数過ぎて、一体何名が戦地にいるのか、ピン君にも把握できなかったとか。
全く知らない自衛隊の世界の話は新鮮だったので、俺はワクワクしながらピンの話を聞いていました。
「本物の戦場を想定した土地での訓練だから、トイレも無いんだよ。小便だったらどこでもできるからいいんだけどさ、大の時が困るんだ。1回だけ、その用を足している最中に敵のチームに見つかっちゃってさ、撃たれるかと思ったんだけど、『武士の情けだ』って言われて、見逃してもらえた」
ピン君は少し切なさそうでした。
用を足している姿を知らない人に目撃さるぐらいなら、撃たれた方がマシだったのでしょう。
ピン君が女性だったら自殺もんです。
でも、見ちゃった方も嫌だったろうなあ。
で、この戦争のシュミレーション訓練、もの凄いハードだったみたいですね。
重装備を装着したまま全力疾走しなければならない上に、24時間以上のフル活動。
加えてピン君は当時、個人的に重大な悩み事があったために、3日ほど眠っていなかったんですって。
無線の指示にも苛立っていたとか。
「現場の細かい状況も分からねえクセしやがって、偉そうに命令してんじゃねえよ! さっきから黙って聞いてれば、全部くだらん命令ばっかじゃねえか!」
彼はその時、ある決意をしたのだそうです。
ピン君は無線で「電波の状況が悪いので、そちらの近くに移動したい。居場所を教えて欲しい」と連絡しました。
そして指揮官の近くへ。
ピン側チームのボスがそこにいます。
ちなみに、ピンの役割は狙撃手でした。
スナイパーです。
彼は自衛隊設立以来の素晴らしい快挙を成し遂げました。
味方の指揮官の暗殺です。
ピン君は自分のボスを狙撃しました。
まあ、暗殺と言っても光線だけですから命に別状がなければ怪我もしないのですが、撃たれた者は戦線を離脱しなければなりません。
指揮官が謎の死をとげたピン君のチームはやむなく惨敗。
全てピン君の功績です。
ちなみにこの光線銃の当たり判定は「軽傷」「重傷」「即死」の3パターン。
で、彼に撃たれた指揮官は「即死」でした。
ピン君、素晴らしい腕前だ。
ただお前は撃つ相手を間違っている。
でですね、誰が誰を撃ったのか、自動的に記録が残るのだそうで、結局は暗殺犯がピン君だとバレてしまい、彼はこってり怒られる事に。
それでもピン君は頑張りました。
以下、上官からのお説教の様子です。
「味方を撃つとは何考えてんだ?」
「馬鹿な命令ばかり出して、部下を無駄死にさせた指揮官よりはマシです」
「何が馬鹿な命令だ! 上官が赤と言えば、白い物でも赤になるんだ!」
「赤と白の区別もできない者に、自分の命を預けることはできません」
「物の例えで言ってるんだ!」
「では、もっと感心出来る例えを聞かせてください」
「黙れ!」
「……」
「何か答えろ!」
「命令通り、黙っていた事が不服ですか?」
この場は結局、さらに偉い指揮官が登場し、「それくらいにしなさい。確かに味方を撃つのは重罪だが、部下の心を掴めなかった君も悪い。この件は、運悪く味方の流れ弾が命中した事にしておこう」ということになったそうです。
というわけで、表向きには「事件」は「珍事」に。
ピン君は叱られるだけで済んだのだそうです。
後日、自衛隊員の間での学級新聞的な掲示板の中にはピン君の名が。
ピン君は扱いにくい隊員のナンバー2に、見事に選ばれていました。
彼がこのコーナーに名を載せるのは初めてのことだったそうです。
では、1位から順にコメントを見ていきましょう。
第1位、○○君「綺麗な花にはトゲがある」
第2位、ピン君「汚い花にもトゲがある」
第3位、○○君「トゲは無いけど、花も咲かない」
この記事書いた人、面白い。
しかし、最も面白いのは間違いなく上官を即死させたピン君でしょう。
お前はとんでもありません。
ちなみに2002年にピン君は自衛隊を退隊し、それからはある会社で頑張って働いています。
そこの社長が狙撃されやしないか心配です。