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夢見町の史

Let’s どんまい!

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2009
August 16
 2001年、夏。
 俺は悪友のトメと話し込んでいます。
 ちょっとした旅行の打ち合わせをしていました。

 せっかくパスポートがあるんだから海外にでも行きてえんだけど、金がねえしなあ。
 やっぱ国内かあ。

「ああ、ジンは?」

 ああ、あいつ駄目だって。
 休みも金もないってさ。

「おいお~い、俺とお前の2人で行くのかよ~?」

 そうだな。
 お前と2人きりってのもキモいな。
 誰か連れてく?

「S君なんていいんじゃねえ?」

 S君とは年下の男友達で、理数系頭脳の持ち主です。
 明らかに俺達とは毛色が違うのですが、何故か気が合うので、当時は結構遊んでもらっていたんですね。
 S君は以前、こう言っていました。

「俺、めささんやトメさんみたいに、野宿とかって絶対出来ませんね。無理ですよ、ホント」

 S君、何事も経験だ。
 俺たちと知り合った事を不幸と呼んでくれて構わない。
 だけど、野宿なんて出来るのも若い内だけだよ?

 というわけでS君、「めさ&トメのワイルドツアー1泊2日」に強制参加決定です。

 悪ノリ2人組による悪魔のような打ち合わせはさらに続きました。

 S君にはさ、『日帰りだ』って言っとこうぜ。
 でさ、帰るに帰れないとこに連れて行こうよ。

「おう。猿島なんかいいんじゃねえ? あそこ無人島だぞ」

 いいねそれ、最高ーッ!

 この2人、ホント最低です。

 横須賀からフェリーに乗って15分ほどで行ける無人島、それが猿島。
 昔は日本軍の基地として機能していましたが、今では海水浴や釣りが楽しめる小さな島です。
 3人でここに行くこととなりました。

 S君に連絡を入れると、彼は普通に「行きたいです」とのこと。

 良かった!
「日帰りで海水浴に行くよーん」って嘘をついて、本当に良かった!

 こうして、いよいよ出発の日。
 俺は自分の用意した荷物を見て、少し引きました。

 多くねえか?

 明らかに「日帰りで海水浴」って感じの荷物には見えませんでした。
 この巨大な荷物を見て、頭のいいS君が不審に思わないはずがありません。

 でもまあ、いっか。
 バーベキューもするって言ってあるし。

 しかし、俺はトメの荷物を見てさらに引きました。

 俺の用意した荷物より、さらにデケえ。

 人間の死体ぐらい平気で入れておけそうな、くそデカい箱が1つと、最大規模の旅行カバン。
 もはや無人島で1泊というより、暮らすつもりの準備に見えます。

 ま、いっか。
 俺たちいっぱいご飯食べるから。

 その夜、「荷物の量の問題なんて細かい細かい」と泳ぎがちな瞳でS君と合流すると、何も知らない彼は、やはりどっかの服屋で貰ったらしきビニール袋1つ背負ってトメの車に乗車しました。

 S君ごめん。
 ホントごめん。
 そんな軽装じゃ君、困るぞ。

 それでもお構いなしに発車する悪友の車。

「猿島は昼は売店があるんだけど、一応無人島だからね」

 そんな取ってつけたような理由で、俺とトメは水と食料を買い込みます。
 その量がやっぱり多いので、俺は何も見なかったことにしました。

 車はそのまま、まずは横須賀を目指して進みます。

「あれ? この道で当ってんのか?」

 簡単に迷子に。
 コンビニで横須賀の地図を買い、俺たち一行はその辺をうろうろと走ります。

 しばらくして、「あ、看板あったぜ」とトメ。

 見ると、確かに「この先フェリー乗り場」と記された看板が。
 一体どこ行きのフェリー乗り場なのかは書いてありませんでしたが、取り合えずは看板通りに進みます。

 こうして俺たちは、めでたく間違ったフェリー乗り場に到着。
 看板には金谷(かなや)行きと書いてあります。
 決して猿島とは書いてありません。

「ここで合ってるんですか?」

 そう首を傾げるS君に、俺は胸を張って答えました。

「絶対に違う」

 フェリーは、千葉の金谷に向かうものでした。

 ところで、俺達には学がありません。
 金谷をキンタニと読み、その変な読み方を疑いすらしませんでした。

 金谷在中の方、すみません。

 トメはこんな疑問を口にしていました。

「どこだよ、キンタニってよー」

 架空の土地だ。

 加えて俺まで。

「キンタニ、か。なんか嫌な土地だよな。恥ずかしくねえ?」

 恥ずかしいのは金谷が読めないお前だ。

 キンタニ行きじゃないフェリー乗り場にたどり着いたのは、それから2時間後ぐらいでしたでしょうか。
 無事、猿島行きのフェリー乗り場に到着できた安堵感が車内を満たします。

 トメがだらしなく足をハンドルの上に投げ出しました。

「試しにキンタニ行っても良かったなぁ」

「そうだなー。キンタニいつか行ってみようぜ」

 と俺。

 S君も笑顔です。

「でも本当にたどり着けて良かったですよー。俺、明日は実家のY県に帰んなきゃいけませんから」

 その言葉に、俺とトメの動きは固まりました。

 明日、実家に帰る?
 なんでだ!?
 聞いてねえぞ!
 明日は君、実家どころか本州にも帰れねえんだぞ!

 正直言って、大誤算です。

 S君は日帰りのつもりでいますから、言われてみれば翌日の予定があってもおかしくはありませんでした。
 問題はどうして実家に帰るのか、という理由です。
 例えば、S君の父上が危篤状態に陥ったとかだったら、今回のワイルドツアーは即中止。
 無人島グッズは車に置いて、ただの日帰り海水浴に変更です。

 まずはその辺りを、S君に確認しなければ。

 トメが平常心を装い、何気なくS君に質問しました。

「明日、何かあんの?」

 S君は応えます。

「ああ、彼女に会いに行くんですよー」

 ワイルドツアー、続行決定です。

 S君、悪いが君は明日彼女には会えない。
 絶対にな。
 どうしても会いたいなら俺とトメを倒し、泳いで帰れ。

 叶わない片思いに悶々とする当時のトメと、ずいぶん長いこと恋人がいない俺を敵に回したS君は、これから襲いかかる不幸に気づくことなく、笑顔のままでした。

 俺は内心、怒りに震えながら笑みを浮かべます。

「そっかー、S君の彼女、Y県だもんねえ。それで明日、会いに行くんだあ?」
「ええ、もう電話してあるんですよー。明日帰るからって」

 バカが!
 明日のお前の恋人は、俺がS君用に持って来たサバイバルナイフだ!
 刃物だ刃物!
 俺たちと来た事を後悔させてやるぜ!
 明日は楽しくなりそうだ!

 そうこうしてて、時刻は早朝。
 猿島行きのフェリーが、まもなく出航します。

 俺たちは前もって、できるだけフェリーの近くまで荷物を運んでおきました。
 乗り場の看板には大きな字で、「最終フェリーは5時」と書かれています。
 俺はS君に看板を見られないよう、やたら話しかけるなどして意識をさせませんでした。
 最終フェリーは乗り過ごす予定ですから、S君に見られたら帰られてしまいます。

 逃がさねえよ。
 絶対にな。

 向こうに着いたら、S君には「最終フェリーは6時だぜ」と言い張るつもりです。

 さて。
 いよいよ出発の時間が迫り、俺たちは他のお客さんに迷惑をかけないように、クソ重い荷物を手分けして持ち、船内へ。
 その際に1番困った荷物は、やはりトメの持って来たデカい箱でした。
 人間が1人で運べるとは思えない重量を誇り、それでいて持つとこがあんまりありません。
 海に捨ててしまおうかと真剣に考えたぐらいでした。

 しかし、S君はあまり気にしてはいない風で、「なんで日帰りの海水浴なのに、こんな引越しみたいな事をするんですか?」とは突っ込んではきませんでした。
 良かった。
 意外と彼、バカかも知れん。

 いよいよフェリーが出航します。
 船に乗るのは本当に久し振りだったので、俺は妙にワクワクしていました。

 ところでこのフェリー、猿島と横須賀という近距離を往復するための船ですから、あんまり大きくはないんですよ。
 なので非常に揺れるんです。
 それが俺にはたまらなく嬉しくて、揺れるたびに「きゃっほーう!」などと奇声を上げたい気持ちをずっと押さえていました。

 しかし、トメとS君は真っ青な顔して死にそうです。

 2人とも、船に弱かったんですね。
 大丈夫ですか?
 口数があまりありませんよ。
 特にトメ、知らない人が見たら、具合が悪いのか機嫌が悪いのかよく解らないので、なんか喋ってくださいよ。
 お前は顔が怖いんだよ。

 何はともあれ、猿島に到着です。
 他のお客さんたちがそれぞれ場所取りに励んでいる中、俺たちだけはもの凄く遅いスピードで荷物を運んでいました。
 トメの箱がクソ重かったのです。

 要らないような苦労を経て、ようやく場所を確保。
 一息ついた俺たちは、釣りでもしようと岩場に向かいます。

 トメが口を開きました。

「釣った魚、その場で調理して喰おうぜ」

 その素敵な提案に俺はもうワクワクです。

「いいね、それ! みんなで釣って、みんなでサバいて、みんなで食べようぜ! S君! 行くぞ!」
「俺、眠いんで、荷物置いといたとこ行って寝てます」

 S君は簡単にいなくなりました。

 なんでだ。
 ま、いっか。
 S君には後で釣った魚を持ってってあげよう。

 ちなみにトメが持って来た竿は1本だけなので、俺はおとなしく釣果を見ていました。
 すると、釣れる釣れる!
 どこが喰えるのか解らない、気の毒な程に小さいハゼと、不気味にテカる赤紫のキモい魚。
 そしてフグ。

 喰えるか!

 釣った魚を全て逃がし、俺たちは無言でS君の元へと戻りました。

 ちなみに、赤紫のキモい魚はベラといって、食べられるのですが、なんか嫌でした。

 戻る最中、トメは片思いの相手であり、S君の妹でもあるT子ちゃんに電話をかけ、話し込んでいます。
 携帯電話の電波は余裕で入るみたいですね。

「ああ、さっき着いたよー。え? いや、今はめさと一緒。S君、今寝てるぜ? ああ、解った」

 トメはすると、不気味な笑みを浮かべました。

「お前の兄貴、ワイルドになって帰って来るからよ」

 素敵な宣言をして、トメは電話を切りました。

 S君がワイルドになった姿、ちょっと想像するのが難しいな。
 でも悪くねえ。

 俺たちは寝ているS君の元へと戻り、今度は昼食の仕度に取りかかります。
 トメが色々取り出そうと、例の箱を開けました。

「まずはテントだな」

 マジでー!?
 テントなんか持って来てたんだあ。
 だったらあの重さに耐えた苦労がへっちゃらに。

 すっかりトメに感心です。
 しかしトメはテントの外壁にあたるビニールを取り出した後、どういうわけか、また中へと戻してしまいます。

「え? なんでしまうの? テント組み立てないの?」

 素直に問うと、悪友は一言。

「骨組み忘れた」

 俺たちは必死の思いで何を運んだ?
 カスやゴミだってもうちょっと軽いだろうに。

 それにしてもこの巨大な箱、怖くて確認なんてしたくはありませんが、まだまだたくさんの無意味アイテムが中で寝息を立てているのだと予感させます。
 ものスゲー役立たずの波動を凄え発していやがる、箱とトメ。

 なんとか気を取り直し、トメが箱からキャンプ用のカマドを取り出してセットします。
 島の中に枯れ木が落ちていないことは確認済みだったので、誰かが炭を買いに行くことに。

 しかし年下のS君に行かせるのは威張っている人みたいで嫌でしたし、騙してこれから野宿をさせるわけですから引け目もあり、俺とトメ2人だけでジャンケンをします。
 結果、負けたのは俺だったので、お金を持って島の売店へと向かいます。

「すみませーん。炭下さい」
「はーい、どうぞー。あ、着火剤はどうします?」

 チャッカザイって何?

 俺は当時まで、火はその場にある物だけで起こしていたので、着火剤なんて使ったことがありません。
 つまり俺は無知なことに、着火剤という存在そのものを知らなかったのです。

 自分の知識の無さを棚に上げ、俺はフフンと鼻を鳴らします。

 はっはァ~ん。
 俺を素人だと思って、余分な買い物をさせるつもりだな?
 商魂たくましいのは良い事だ、店員の人よ。
 しかしな、その手は俺には通用しないぜ。

 そんな事を本気で考えていた俺は、堂々と言い切りました。

「着火剤? 要らないですよ」

 炭だけを手に戻ると、やっぱりなかなか火が点きません。

 痺れを切らせ、トメが言いました。

「めさ、お前はなんで着火剤を買ってこねえんだよ~」
「ああ、断っといたよ」
「お前、着火剤がねえとなかなか火が点かねえンだぞー」
「へえ、そうなんだ。俺、てっきり騙されてんのかと思ったよ」
「誰もお前なんか騙してねえよ~。いいからお前、もう1回行って買って来い」
「やだよ、ばか! 俺メチャメチャ堂々と『要りません』って断っちゃったんだぜ? それなのに、また俺が『すみません、やっぱり着火剤下さい』って言うわけ? 恥ずかしくて言えるか! だいたいな、こんなモンはそこら辺に落ちてる物を使えば何とかなンだよ!」

 俺は意地でも、着火剤なしで火を起そうとする方針です。

 他の一般客と違い、そこら辺に落ちている木屑やゴミで炭に火を点けようとするので、俺たちのエリアだけが大量の煙を生産していました。
 次々にくべられる様々なゴミ屑。

 やっと火が点いたと思う頃、何かが軽く爆発したので台無しになりました。
 トメにはその爆発が相当恐怖だったようで、俺が「竹が破裂したんだよ」と言っても耳を貸さず、大きめの石をたくさん拾って来ては次の爆発に備え、こつこつとバリケートを作成し始めていました。

 ちょっと遠くから見ると、俺らの場所は岩だらけ。
 この3名の男どもは一体、さっきから何をやっているのでしょうか?

 どうにか火を起こし、肉を焼いて食べると、それからしばらくは遊ぶ時間です。

 海で泳ぎ、トメにクラゲを投げつけられ、島を探検し、砲台跡を見学し、暗いトンネルに恐怖する楽しい一時。
 時間は確実に流れていきます。

 最終フェリーの出航時間が近づくと、一般のお客さん方が帰り仕度を始めるはずなので、その様子をS君に見せないためにも、俺たちは山の上まで来ていました。

「ここでチェスでも打とうか」

 俺はS君の気を時間からそらすだけのために、チェス板を持参していました。

「いいですね。やりましょう」と眼鏡を光らせるS君。

 ごめんな、S君。
 君はもう、ある意味チェックメイトだ。

 俺たちは木陰のベンチに腰を下ろし、木のテーブルにチェス板を広げます。

 島内には、いたる所に放送用のスピーカーが設置されており、律儀にも最終フェリーの時刻が迫りつつあると教えてくれやがります。
 スピーカーの存在と放送内容をあらかじめ予測していた俺は、しっかりと打開策も考えてありました。

 放送開始の瞬間。

「まもなくさいしゅ…」
「こンないださあー! 妹が犬買ってさあー! すンげえ可愛いんだー!」
「あと、10ぷ…」
「いやあ、ホント来て良かったよなあー! 猿島!」

 でっかい声でスピーカーの声をかき消す大作戦です。
 これで確実に俺たち、帰れません。

 しかし、その事実を知ったとき、S君は果たしてどんな顔をするのでしょうか。
 打ち明ける際、俺の口は重いものでした。

「S君、あのさ、大事な話があるんだ」
「解ってます。俺、今日は帰れないんですね?」
「ンな…! いつから気づいてた!?」
「いや、なんとなく。めささんもトメさんも、帰る時の話を全然しないから、『ああ、この2人は帰る気がないんだなあ』って思いました」
「そうか、気づいてたんだあ。良かったー! 俺、S君にどうやって謝ろうかと思ってたよー!」
「謝ってくださいよ!」

 ごめんなさい。

 俺とトメは一緒になって謝罪を済ませ、元の海岸へと戻ります。
 そこには、もちろん誰もいやしません。
 完全に3人きりです。
 遠くに横須賀が見えました。

 うん、良い感じ。
 これでやっと無人島らしくなりました。

 あ、そうそう。
 このとき知ったのですが、猿島ではキャンプが禁止されていました。
 なので皆さん、俺たちの真似はどうかしないでください。
 フェリー以外の入島も禁じられているので、泳いで来ちゃダメダメよ。

 さて。
 悪い子になってしまった俺たちは、今度は夕食の準備に取りかかります。
 燃え残った炭を勝手に拝借し、再び火を起こしました。
 今夜のメニューは、「めさ特製サバイバル不思議鍋」です。
 作り方はそこら辺の食材を適当に煮るだけ。

 黙々とたまねぎの皮を剥くS君。
 謎の爆発を恐れ、カマドの周りにバリケートを作成するトメ。
 刃についたゴミ種を払うため、思い切りナタを振ったら刃の部分が柄からスッポ抜け、ビックリする俺。
 トメが持って来たナベが、少し小さいと文句を言う俺。
 デカいナベもあったが、大きさがこれくらいだったと、砂に直径1メートルの円を書くトメ。
 やっぱりこのナベでいいと折れる俺。
 黙々とたまねぎの皮を剥くS君。

 S君だけがさっきからずっと無言です。

 さて。
 あとは煮上がるのを待つだけとなった頃、S君は彼女に電話をかけていました。
 きっと「変な2人の男に無人島に拉致されたので、明日は会えそうもない。ごめんなさい」とでも報告するのでしょう。

 しばらくしてS君は電話を切り上げ、妙にさっぱりとした表情をこちらに向けます。

「俺、明日Y県に帰らなくてもいいってことになりましたよ」

 ああ、そうなんだ。
 なんで?

「フラれました」

 ああそう。
 まあ、なんて言っていいか解らないけど、元気出しな?
 そのうちきっと、良いことあるよ。
 ってゆうか、俺たちのせいじゃないよね?

 現在、猿島の人口は彼女がいない3人の独身男性のみ。

 がんばれ俺たち!
 死なないために生きるんだ!
 勝つまで負けろ!
 S君、泣くな!

 無駄にテンションが上がり、やり場のない勢いがつく3名。

 辺りはすっかり暗くなり、俺はランプ型のライトを灯します。
 鍋もいい具合になってきて、そろそろ食事の時間です。

 俺たちに騙され、したくもない野宿を強要された挙げ句、劇的な失恋を成し遂げたS君に優先してよそってあげました。

 鍋は最高に美味しかったです。
 明るい雰囲気の食事時、カマドの炎とランプの明かりが良いムード。
 男しかいないけどな。

 ちなみに、この時の話題は「もしもこのナベが完成間近でひっくり返ってしまったら」といった内容でした。
 形式は、俺とトメによる妄想劇です。

 ああッ!
 これから喰うぞってときにナベが全部ひっくり返ってしまったあ!

「仕方ありませんね。ちょっと待っててください」

 ちょ、S君、どうする気だい?

「お待たせしました。さあ、これをみんなで食べましょう」

 これは、ケンタッキーじゃないか!
 どこでこれを?

 するとトメが「あっちで買ってきたんですよ」と対岸の街を指差すのです。

 そんなくだらない2人芝居を繰り広げていると、いきなり俺のおわんから変な音が。

 ビシッ!

 俺は目を見開き、叫びます。

「カナブン! カナブンが! カナブンが俺のおわんに!」

 カナブンが俺のおわんに、ダイレクトに突っ込んできました。

 なんでよりによって俺のおわんに!?
 着地ポイントなんて、他にもたくさんあるだろうに!

 ちなみに、この時の様子は俺が持って来たビデオカメラにしっかり納まっているんですよ。
 あとで観賞したところ、俺が急に「カナブン、カナブン」と変な叫び声を上げ、慌てた様子で箸でカナブンを掴み、放り投げていました。
 カナブンを排除した後の俺は、おわんも箸も取り替えずに、何事もなかったかのように、そのまま食事を続けておいででした。

 食事を終えると、次はお酒。
 と、いきたいところですが、みんな徹夜していますから、もう眠くて眠くて。

 カマドの残り火にジャガイモを2つ置いて、眠ることにします。

 しかし、夜の無人島って思いの他、怖いんですよ。
 俺もトメも、オバケの類が大弱点。
 元日本軍の基地でもあったこの島、今日はたまたま終戦記念日。
 ああ、嫌だ。
 寝よッ!

 ところが夏とはいえ、夜は冷えるので、眠るとなると結構寒いんですよね。

 S君がトメに「タオルケット借りてもいいですか?」と申し訳なさそうに訊ねていました。
 トメが「いいぜ」と快くタオルケットを提供してあげます。

 S君は気を使い、「本当に俺がタオルケット使っちゃっていいんですか? トメさん寒くないんですか?」などと念を押します。

「ああ、いいよいいよ~。俺は大丈夫だからよ~。S君タオルケット使えよ~」

 トメは格好良く、器の大きな男の姿を見せました。
 S君は本当に感謝の念を込めて、「すみません、すみません」と何度も頭を下げ、横になります。

 S君が寝息を立てる頃、トメはカバンの中から分厚い毛布を取り出し、自分で使っていやがりました。

 俺は俺で、自分用とS君用にとウインドブレーカーを2着用意してきています。
 でも寒かったので、2着とも自分で使ってしまいました。
 どんまい!

 翌朝、強い日差しに目を覚ますと、S君とトメは既に起きていました。
 どうやら、あまり眠れなかったようです。
 S君が毛布の件で、トメを責めているところでした。

 俺は空腹だったので、眠る前に置いておいたジャガイモのことを思い出します。
 しかし焼け跡を見ると、ジャガイモの姿がありません。

「ねえトメ。ジャガイモは?」

 悪友はわざとらしく「あれ?」と、素っ頓狂な声を上げました。

「お前が喰ったんだな? まあいいや、確かモチが残ってただろ? おモチ食べるからいいよ。ええと、モチ、モチ、モチと。ねえトメ。モチもねえ」
「ね、ねずみが」
「ああ、そう。モチも美味かったようで何よりだ。じゃ、昨日の鍋の残り、食べてもいい?」
「いいぜ」
「ホントに!? もう全部喰っちゃうぞ。って、この鍋、中身ないし!」

 俺が喰いしん坊にマジギレしたあと、昨日と同じく一般のお客さん方が島に到着。

 島の管理人っぽい人に泊まっていったことが何故かバレ、罰金を払ってから横浜に帰りました。

 トメの持ってきた巨大な箱の中身の7割は、結局1回も使用しないガラクタばかりだったので、捨てて帰ろうかと本気で悩みました。

 トメが、S君の妹に言い切った約束。

「お前の兄貴、ワイルドになって帰って来るからよ」

 どうやら失敗したみたいです。

 S君はワイルドになるどころか彼女に振られ、体調を著しく崩し、おまけに変な動物霊に取りつかれていました。

 ホントごめんな、S君。
 来年も誘うから許してくれ。

 数日後にS君はちゃんと御払いを受け、除霊をしてもらったみたいです。
 彼女との破局の原因も、俺たちとは無関係だったらしくて一安心。

 また、猿島で撮ったビデオテープを人に見せたところ、「めさとトメ、原住民みたい」なんてあまり嬉しくないコメントを頂いたことを追記し、今回のお話を終了いたします。

 とっても楽しかったですよ。

 そうそう。
 ちなみに、猿島に猿はいませんでした。

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プロフィール
HN:
めさ
年齢:
48
性別:
男性
誕生日:
1976/01/11
職業:
悪魔
趣味:
アウトドア、料理、格闘技、文章作成、旅行。
自己紹介:
 画像は、自室の天井に設置されたコタツだ。
 友人よ。
 なんで人の留守中に忍び込んで、コタツの熱くなる部分だけを天井に設置して帰るの?

 俺様は悪魔だ。
 ニコニコ動画などに色んな動画を上げてるぜ。

 基本的に、日記のコメントやメールのお返事はできぬ。
 ざまを見よ!
 本当にごめんなさい。
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