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夢見町の史

Let’s どんまい!

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2017
June 24
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2009
August 26
 19歳の夏、悪友ジンとトメと3人で静岡県の白浜海岸に行こうって話になりました。
 ジンがようやく自動車の免許証を取得したので、彼のドライブテクニックを磨くための遠征という大義名分の下、綺麗な海で遊びまくろうといった計画です。

 ある日、コンビニでのバイトを終えると、俺はそのまま仕事仲間とカラオケを楽しみ、家路につきました。
 時刻は午後11時にもなっていたでしょうか。

 歩いていると、俺の家の近くに止めてあった車が急にクラクションを鳴らしました。
 明らかに、俺に対しての音攻撃です。

 なんで絡んでくるんだよ、もー。
 やめてよね~。

 俺がちょっと嫌な気持ちになっていると、車のドアが開きました。

「お前、今までどこ行ってたんだよ!」
「ったくよ~、先行くトコだったぜ」

 車から出てきたのは、紛れもなくジンとトメでした。
 でも、言ってることが解りません。

 勝手にどこにでも行ってくださいよ。
 お前ら俺を夜中に待ち伏せとかしないでくださいよ。
 キモいんですよ。

 すると、

「ふざけんな、このクソガキ!」

 ジンが真顔で怒ってます。

「白浜行くの今夜って言ったじゃねえか!」

 今夜!?
 明日じゃねえの!?

「っお~い。なに言ってんだよオメーよぉ」

 トメは相変わらずダルそうです。

「今夜だ! って言ってるそばからお前、どこ行ってたんだよ~」

 友達とカラオケ唄ってた。

「とっとと仕度してこい!」

 どうやら俺は白浜に出発する日を1日ズレて覚えていたようです。
 どんまい!

 ジンとトメに怒られ、俺はダッシュで海で遊ぶセットをカバンに詰め込み、再び車へ。
 出発時刻は俺のせいで予定より大幅に遅れてしまいましたが、気を取り直して白浜に向けて発車します。

 車はしばらく、ジンのつたない運転で進むみました。

 ジンが不意に、ミラー越しに俺の目を見ます。

「めさ、お前さ、金いくら持ってきた?」

 俺は視線を下げました。

 なんて嫌な質問をしてくるんだろう。
 痛いトコ突いてくるよな~、こいつはいつも。
 嘘をついてもどうせバレるから、正直に答えといてやりますかね。

 俺はボソリと「700円」と口にしました。

「良く、聞こえなかったよ。いくらだって?」
「だ、か、ら! 700円!」
「車から降りろ」
「やだよバカ! こんなトコで降ろすなよ! しょうがないじゃん! カラオケ行った後なんだから!」
「だからって700円はねえだろ! おい、トメもそう思うだろ!?」
「ん~。んあ? もう着いたの~?」
「寝てたのかよ!?」

 トメは車の運転手をフォローするために助手席に座ったにも関わらず、見事にぐっすりと眠っておいででした。

 ちなみに俺の全財産700円は、最初に寄ったコンビニで全ておにぎりとお菓子とジュースに化けました。
 どんまい!

 もうすぐ夜が明けます。
 そしてこの夜明けが、まさか悪夢のような体験の幕開けになろうとは、ジンだけが何気に気づいていたみたいです。

 朝になる頃、俺たちを乗せた車は静岡県の沿岸を走っていました。
 トメは相変わらずグースカとうるさい寝息を立てていやがります。

 ジンがハンドルを握る力を込めました。

「もうここが白浜海岸だぜ。駐車場を探そう。おい! トメ起きろ! 白浜着いたぞ!」
「ん~。着いたら起こして~」
「だから! 着いたって言ってんじゃねえか!」

 おバカは放っといて、まずは車を駐車場に入れてしまいましょう。

 駐車場のお姉さんが、俺たちの乗った車を先導してくれます。
 その際もジンは頑張ってトメを起こそうと必死でした。

「おい! トメ起きろって! 着いたぞ!」
「うう~ん。ここ、どこ~?」
「だから白浜だっつってんじゃねえか!」
「ぷぷッ!」

 反射的に吹き出していた駐車場のお姉さんの可笑しそうな顔が今でも忘れられません。

 浜辺に出ると、天気は上々。
 夏特有の大晴れで、今日はとても日差しの強い1日になりそうでした。

 こんな上天気の中で1日中浜辺にいれば、きっとこんがりと焼けることでしょう。
 事実、俺たちの近くにいた20代らしき年頃の男性は、その全身を気の毒なぐらい真っ赤に変色させ、俺たちに無駄な心配をされた挙げ句、「赤鬼」というコードネームまで命名されていました。
 赤鬼は楽しそうに遊んでいましたが、絶対に明日は皮膚科のドアを叩くでしょう。
 お前は紫外線を浴びすぎです。

 さて、俺達は浜辺にビニールシートを広げ、川の字に横になりました。
 トメは再び寝てしまいます。
 夜に出発し、先程到着した俺たちはつまり、徹夜をしたことになりますから、やはり眠気を感じていました。

 では、お休みなさい。

「……」

 暑くて眠れぬ。

 俺とジンは無言で上半身を起こし、ビニールシートに溜まった汗の水溜まりをバシャバシャと払いました。

「めさ、お前、喉乾かねえ?」
「うん。何か飲みたい」
「飲み物でも買いに行くか」
「行く。でも俺、金ねえぞ」
「家に帰れ」

 浜辺の温度と反比例して冷たいジンを拝み倒し、ジュースを買ってもらいます。

 暑過ぎて汗がダラダラと滝のように流れるので、何度も売店と浜辺を往復し、その都度俺はジンにジュースを奢ってもらいました。
 ついでにヤキソバもねだりました。
 だってお腹が減ったんだもん。
 仕方なし。

「ところでコイツ、なんで平気で寝てられるんだ?」

 ジンの視線を追うと、そこには気持ち良さそうに眠っているトメのだらしない姿が。

 確かに。
 人が眠れるような気温じゃ決してないのに、こいつは気持ち良さ気だ。
 一睡もしてない俺とジンが暑くて眠れないというのに、車の中でも寝ていたトメが何故に1番先に眠れるのだ。
 顔面に落書きを施してやりてえ。

「しかもコイツ、あまり汗もかいてねえぞ」

 ああ、野生の獣は暑いの平気なんだろ。

「俺さ、前から思ってたんだけどさ」

 なに?

「普通の友達が欲しい」

 そんな遠い目をするなジン。

 やがてトメも起きだします。
 3人で海に入りました。
 ゴムボートをレンタルし、沖への遠征を試みます。

 3人はあっという間に、かなり沖まで来ることができました。

 談笑タイムです。

「トメがさっき『あの人ノーブラだ』って言うから、慌てて目を見張ったらさあ」
「ロン毛の兄ちゃんだったんだろ? 俺もさっきやられたよ」
「だってブラしてなかったからよ~」
「男がブラしてるほうがおかしいだろ! 目ざとく普通の人見つけてんじゃねえよ!」
「マジで普通の友達が欲しい」

 まあまあ、バカトークはそれぐらいにして、そろそろ陸地に戻りましょうか。

 ところが、なんか妙に陸地が近づいてきません。
 沖に来る時は早かったのに、おかしいです。

 というわけで、俺たちを乗せたボートは、潮に流されていたのでした。

 気づくのが遅かった!
 しかもオールがねえ!

「急いで戻るぞ!」

 ジンが焦った口調で叫びます。
 必死に素手で海水をかく3名の若者。
 しかし陸地は一向に近づいてはきません。
 馬力が足りていないのです。

 ジンが、再び怒鳴りました。

「このままじゃ戻れねえ!(日本に)1人だけボートの上で漕いで、あとの2人はボートを外から押そう!」

 俺たちはジンの提案に従い、交代でボートに乗り降りしつつ岸を目指しました。
 最初は外側の2人がバタ足でボートを押していたのですが、ドロップキックで押し出した方が効率が良いということで、2人が同時にボートを蹴って押し進めます。

 グンと進むボートに泳いで追いつき、再びボートを蹴る2人。

 この時は俺がボートに乗って、漕ぐ係でした。

 ジンとトメが同時にボートを蹴って押します。
 蹴り出したボートに泳いで追い付こうとする2人の位置関係はというと、ジンの後ろに、トメがいます。

 俺はこの時、大変なものを目撃してしまいました。

 ジンの後ろから必死の表情で追いつこうとするトメ。
 彼の前髪が、完璧に揃っていたのです。

 トメの前髪が大変だ!
 綺麗にビシッと揃ってる!
 しかもトメ、真顔!
 こんなマジなんだかふざけてんだか解んねー奴、見たことねえ!

 普段はいかつい顔面を持つトメの可愛い髪型に、前を泳いでいるジンは気がついていないご様子。

 こんなに面白い物は、ジンにも見せてあげなくちゃ!

 夢中になって俺は絶叫します。

「ジーン! 後ろだぁ! 振り向けー!」

 ジンは一瞬、「はあ?」と言いたげな表情を浮かべました。
 が、俺の必死さを悟ったらしく、泳ぎながらも後ろを振り返ります。

 そこでジンが見た物は、有り得ないヘアースタイルのまま、必死の形相でジンに近づこうとする、トメの面白い姿。

 ジンは、

「ぶべパぁ!」

 変な声を出して、溺れていました。

 教えて良かった。

 ジンはどうにかボートにしがみつくと、息を切らせながら、

「殺す気か!」

 マジギレです。

 何とか岸に着く頃には、色んな意味でクタクタの3人。

 日が落ち始めた頃になると、俺たちはこんがりと焼けた体を車に入れます。
 そろそろ帰還の時間となっていました。

「お前焼けたなー」
「いやいや、お前こそ」

 遊ぶだけ遊んだ俺たちは口も軽やかに、ジンが車を発車させるのを待ちました。
 ジンが色々と運転席をまさぐっています。
 そして彼は口を開きました。

「お前ら、金持ってるか?」

 なにその質問。
 ないに決まってるし。
 トメは?

「ねえに決まってんだろ~?」

 だよな~。
 でもジン、なんで今になってそんなことを?

「俺の金も無い」

 ジンはたった一言で、俺とトメを黙らせました。

 ちなみにガソリンのメーターは限りなく0に近い数値を示しておいでです。
 ガソリンは無い、金も無い、ついでにお腹すいた。
 これでは俺たち、かなりの高確率でお家に帰れません。

 昼間に飲み物を飲みすぎました。
 ご飯もいっぱい食べました。
 ゴムボートをわざわざ金出して借りて、勝手にピンチにも陥りました。

 そんな俺たち全員の合計所持金額は、1300円。

 ジンがハンドルに突っ伏します。

「テメーらといると、いつもこうだよ!」

 俺のせいじゃないもん!
 車にしまったとか言ってた予備の1000円なくしたの、お前じゃん!
 なあトメ!?

「ふわぁ~、俺、ちっと横になるわー」

 また寝るのかよ!?
 それが何の解決になるんだお前は!

 地獄のような人間関係。
 しかも帰りの高速道路は渋滞中。
 少ししか走らないかも知れないジンの車。

 取り合えず1300円の内、1000円はガソリンスタンドで車にエネルギーを補給するために残しておくとします。

 さて、渋滞をやり過ごすために時間を稼ごうと、ジンは道路脇の開けた場所に車を停車させました。
 そこは海を見渡せる絶好のポイントだったのですが、今の俺たちにそんな余裕はありません。
 俺たちは獣を発見したら直ちに捕まえ、その場で焼いて喰ってしまおうと真剣に相談している野蛮人と化し、タヌキやイタチの姿をマジで探していたりしました。

 ちなみにトメはというと、車のサンルーフから両足を突き出すという奇怪な格好で眠り、通り過ぎるギャル達が乗った車から、

「車から足が生えてるゥ~! キャハハハハ!」

 ドップラー効果つきで笑われていました。

 さて、お腹がすき過ぎてテンションが落ち着いてきた俺とジンは、なんとなく夜の海を眺めています。

「ジン、見ろよ。憎らしい程に綺麗な海だぜ」
「おぉ、詩人だな」
「だってこの景色、凄くねえ?」
「ああ、そうだな。満月が海面に映ってやがる」
「波の音といい、綺麗な星空といい」
「ああ。こんな景色は滅多に見れねえだろ。好きな女の子と一緒だったりなんかしたら、スゲーいい思い出になるんだろうなあ」
「ああ、全くだぜ」

 次の瞬間、俺とジンは互いの胸倉を掴み合い、「何で隣にいるのがテメーなんだよ!」と同じことを怒鳴っていました。
 人間関係激悪です。

 トメは相変わらず屋根から足を出したままの変な格好で眠っているし、酷い空腹感は解消されないままだし、獣は歩いてないから捕まえられないし、景色は綺麗なのに隣にいるのがジンだし、色々最悪です。

 上天気の夜空に波の音が響いていました。

 乳飲み子ぐらいよく眠るトメが、ようやく起きます。
 その頃にもなると、いよいよ俺たちの空腹感はピークに。

 ジン、トメ。
 お前らに言っておきたいことがある。
 俺は今な、腹が減って死にそうだ。

「ったくオメーはよー、なんで700円しか持って来ねえンだよ~」
「他県に行くのに700円しか持ってこねえ奴といい、炎天下の中でも車の中でもグースカと寝てる奴といい、なんなんだよ、お前らは!」

 ノープロブレム。

「充分問題アリだ、このクソガキ!」
「ジンよ~、この車、喰うモン積んでねえのかよ~?」
「あ」

 あ?
 あってなによ。

 ジンは何かを思い出したかのような口調でした。

 もしかして、ポテトチップスぐらいは車中にあるの?
 腹の足しには全然ならないけれど、ないよりマシです。
 ポテトプリーズ!

 しかし、ジンの車に積まれていた食料はポテトどころではありませんでした。
 ジンは次々と、まるで手品のように、トランクから非常食を引っ張り出します。

 水、乾パン、インスタントのお米。

 なんでこんなにあるのだ。

 俺もトメも大喜びです。

「スゲー! 非常食がこんなに!」
「こんなにあンなら、もっと早く思い出せよな~」
「いやしかし助かった~。準備いいじゃねえかよ」

 するとジンはどこか言いにくそうにうつむきます。

「いや、コレさあ、俺の親父が『めさとトメとで遠出するなら必要になるはずだ』って、車に積んどいてくれたんだ」

 俺もトメも「ああそう」としか返せません。

 確かに非常食は3人分。
 明らかに俺たち用でした。
 友人の親に「奴らは非常食が必要になるレベルのトラブルを絶対に引き起こす」と読まれ、しかも見事に的中している俺たちの人生って一体。

 で、3人で均等に非常食を分けたつもりが、俺の取り分だけが何故か目分量を少なく間違えられ、激怒。
 その後、ジンがガソリンスタンドで恥ずかしい思いをしながら1000円分のガソリンを入れていました。
 それでも、車の燃料は微々たるものです。
 しばらくは持つとは思いますが、静岡県内で停車してしまっても不思議ではありません。

 あまりにガソリンが足りなさそうなので、道中の交番に入ってお金を借りようかと思い、深夜の交番のドアを叩くと、偉くマッチョな警察官が酷く不機嫌そうに現れたので涙が出そうになりました。
 交番には俺が1人で入ったので非常に心細く、自首をしにきたかのような錯覚を覚え、涙が出そうでした。
 しかもその挙げ句、「3人もいるのに、どうして誰もお金を持ってないの」と突っ込まれたり、「ガソリンのメーターなんて0になってもしばらく走る」との脅迫めいた口調で説得を受け、俺は無駄に神経をすり減らして交番を後にし、涙が出そうになりました。

 ガソリンが足りないと言っているそばから道に迷う3名。
 またもや寝て、そのまま起きないトメ。
 寝ぼけた運転でサイドミラーを何かにぶつけ、取れたサイドミラーを俺に取りに行かせるジン。

 もうこいつらとは遊びに行かん!
 バカばっかりだ!

 そう思いつつ、俺もいつの間にか寝息を立ててしまいました。

 さて、結果を言ってしまうとですね、俺たちは無事に帰ってこれました。
 朝方になってはいましたけれど。

 後日聞いた話によると、ジンの車の燃料は「あと5キロ走れたかどうか」の量しか残っていなかったのだそうです。
 あっぶね。

 さて。
 トメと一緒になって、ジンの家を訪れたずれたのは、生還を果たしてから3日後のことでした。
 インターホンを鳴らすと、しばらくして玄関が開きます。

 目を疑いました。
 そこには包帯ぐるぐる巻きの、ミイラ男の姿が。

 誰この人。

「何だよ、お前らかよ」

 お前、もしかしてジンか?

「ああ、最悪だよ。日に焼け過ぎて、全身ヤケドしてた」

 そんな痛々しい友人の姿を目にしたトメは心配そうに「お前、その包帯何だよ~。ヨロイのつもり?」などと口走り、俺は呼吸困難に陥って、酷く不機嫌そうなジンはあまり口を利いてはくれませんでした。

「当初の目的だけは見事に達成して、運転上手になったんだからいいじゃない」
「うるせえ!」

 ジンの皮膚はちなみに、全治1週間。
 海に行っただけなのに、全治1週間。

 仮に俺が700円以上持ってたとしても、こればかりはどうにもなりません。

 それなのに、ジンはただただ「最悪だ」を10回ぐらい、ブツブツ言ってるだけです。
 前向きさが足りてませんでした。

 赤鬼の人といいジンといい、海には危険がいっぱいです。

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プロフィール
HN:
めさ
年齢:
41
性別:
男性
誕生日:
1976/01/11
職業:
悪魔
趣味:
アウトドア、料理、格闘技、文章作成、旅行。
自己紹介:
 画像は、自室の天井に設置されたコタツだ。
 友人よ。
 なんで人の留守中に忍び込んで、コタツの熱くなる部分だけを天井に設置して帰るの?

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