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夢見町の史

Let’s どんまい!

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2009
August 07

 前回の日記でアップした「うろ覚えで語るハイジのあらすじ」をすこぶる気に入った友人が、今度は最後のアダムを語ってくれと頼んできました。

 自作品の中でも特に真面目な物語で雰囲気も特殊な最後のアダム
 これを砕けた感じで語るとどうなるのか、やってみました。

 雰囲気ぶち壊しですみません。
 こんな風になりました。

------------------------------

 なんか地球人たちが滅びかけてから3000年ぐらい経ったあとの話なんだけどね?
 その頃の地球はとてもじゃないけど住めない環境だから、みんな地下で暮らしてるわけ。
 巨大ダンジョンみたいな?
 地下街だ地下街。
 文明があった頃に作られたっぽい町だから空調設備とか照明とか整ってんじゃね?

 そんな町から誰も出られないから、主人公や町の人たちはぶっちゃけ、生まれてから1回も空とか見たことないの。
 日光とか浴びてないから、もうみんな色白。

 だから主人公、外にあるってもっぱら噂になってる太陽が見たくてね。
 秘密基地的な部屋に篭って、太陽作ろうとすんの。
 材料は町の天井から電球をパクるといったわがままっぷり。

 主人公の友達でラトってのがいるんだけど、ラトはラトでなんか変なパンみたいのむしゃむしゃ食べてて、全力でゴロゴロしてんの。

 主人公がラトに「外を見たい?」って訊くと、ラトは「夜が見たい」とか言い出してさ。
 一生懸命に太陽作ってるっつーのに、夜が見たいとかって主人公の努力を全否定。

 でも主人公バカだから、友達が「夜が見たい」って言ってんのに、それでも太陽作るの。
 太陽っつーか電気スタンド?
 売ってねーのかよ、その町。

 で、主人公は友達シカトで太陽もどき完成させて、試しに点けてみるのね。
 元々は町を照らす用の電球使ってるから、めっちゃ眩しいの。

 ラト、目を押さえてのたうち回る。
 主人公それ見て何故か高笑いでご満悦。

 ちなみにその部屋変だから、床から木が生えてんのね。
 ラト、主人公の作った太陽そっちのけで、照らされた木のほうばっか見てんの。

「ねえねえ、みみ、実が成ってる。みみ、実が。ああ、あれ、あれ、食べたい! とと、取って!」
「お前バカじゃん。お前の口調どもりすぎだから読むの面倒臭いし。だいたいなに、お前、感じ悪いんじゃないんですかー。俺がせっかく太陽作ったのに、なんで木の実とかに注目するんですかー。お前は本当に俺の気分を悪くしてくれます」

 主人公、めっちゃ器ちっちゃいの。

 で、なんかそこで「あー」とか言って落ちる感覚がして、主人公は気を失っちゃうのね。

 目が覚めると普通に見たことない世界が広がってんの。
 風とか吹いてて、天井がなくって、めちゃめちゃ広いフィールドにいるの。

「意味わかんねえし!」

 主人公、即行で大混乱。
 なんか上空では太陽が2つもあるし。

「つーかなに、あの光ってる星。あれが本物の太陽なんですかー? じゃあ俺が作ったやつ、スゲー小物じゃん。そんな小物なのに、ラトに『もっと注目しろよ』みたいに怒って俺、マジ恥ずかしいし」

 したらめっちゃ綺麗な女の人が主人公のそばにいるのね?

「ここ異世界っす。オメーは何か不思議な現象でこの世界に来ましたよっと」
「マジでー? そかそか異世界かー。外に出ちゃったのかと思ったし。でもそんなわけないもんねー。もしここが外だったら俺、焼け死んでるし。だから異世界って説明のほうが納得ですよ?」
「ちなみにオメーの友達も一緒です。あそこで阿呆みたいに蝶々を追っかけておいでです」
「ホントだー。ラトはホントに能天気屋さん」

 女の人はなんか「自分、案内人ですから」とかって適当な理由つけて、主人公たちが元の世界に帰るために一緒に旅するって言って聞かないのね。
 それで主人公は「この女ぜってー俺に気があるよー」って思いました。

 なんかこの世界、太陽が2つもあるから、なかなか夜にならないんだって。
 でも毎日確実に夜になるエリアがあって、そこの塔に登ればいいんだそうです。
 女の人が言ってたから間違いない。

 旅してると、景色が壮大なのね?
 そこは各自想像に励んでください。

 あと女の人がめっちゃ物知りで、色々教えてくれるの。

「天使と悪魔は同じ生き物なんですよー。影を刺したら死にますよー」
「普通そんな機会ねえよ」

 したらタイミングよく、ラトが短剣とか拾ってくんの。

「けけ、剣もあるよ。けけ、剣。ぼぼ、僕は、ささ、さ、刺さないでね。にー!」
「にーじゃねえよ。にーって一体何なんだよ」

 他にも案内人の人、伝説の超デカい樹が1000年に1回だけ実をつけます的なことも言うのね?

「2000年前の実は食べた奴を不老不死にしましたよー。1000年前のは食べた奴の頭を良くしましたよー。その次の実についてはあえてここでは触れません」
「なんなんだよ、オメーはよ」

 そうこうしてて、一行はついに夜が来るエリアの塔までたどり着くの。

「この塔登ればクリアっす」
「簡単に言うなよ、バカじゃんオメー。この塔、デカくね?」

 その塔、「普通に登ったら高山病になれます」ぐらいスゲー巨大なんだけど、主人公たちは中に入るのね。

 で、しばらく登ってたら後ろから着いてきてたはずのラトがいなくなってんの。

 主人公がバカみたいに「ラトがいなくなったー。ラトがいなくなったー」ってテンパってんのに、案内人の女、空気読めないから「この扉の向こうが元の世界っす」とか言ってんのね。

「元の世界とかってバカじゃんオメー。ラトが消えましたーって言ってんのー。探さなきゃいけないでしょー?」
「バカじゃんとか言ってお前がバカじゃん。ラトがいないのは、わざとですー。奴がいたらあたしら困るから、魔法的な技使って、わざとラトから逃げたんですー。消えたのはオメーのほうだっつーの」
「はー? 意味わかんねーし! ラトから逃げてどうするんですかー?」
「いいからその扉開けろっつーのー! 展開してけよバーカ!」

 ちょっぴり傷ついた主人公が扉を開けると、そこモロに自分らの町なのね?
 地下街だ地下街。

 女の人が言うの。

「お前はバカだからー、ずっと地下で住んでるって思っていましたよーっと。ホントはこの通り。ご覧ください。オメーの町は地下じゃなくって、上空にあったのでした。お前は今まで嘘ばっかり教え込まれてきたのー」
「オメーバカじゃん! 俺が住んでいたのは地下なんですぅー! こっちの町が偽物でーす! だって人とか誰もいないし!」
「そろそろ空気を読んでください。いやむしろ空気をご覧ください。お前だけが人間で、ここで飼われていたんですよー。もっと言えばー、この世には人間はもう2人しか残っていませんー。オメーとあたしです。あとはみんなオメーの飼い主が作ったフェイクよフェイク」
「フェイクとか言ってバカじゃん! そんなん証拠とかねーし! 俺そんなん信じねーし!」
「お前は本当にバカなんですねー。いい加減気づけよー。だいたいオメーには名前がありません」
「はうあ! 確かに!」
「バカじゃんとか言って今まで気づかなかったお前がバカじゃん! お前はこの町で最初から1人なのー。ソロ活動だったのー。だから名前なんて要らなかったのー」
「俺、今まで生きてきて『ねえ』とか『おい』としか呼ばれたことないけどー、いえいえそれでも俺はバカじゃありませんー。だいたいなんで異世界と俺の町が繋がっちゃってんですかー。おかしいじゃん」
「おかしいのはオメーですよー。お前が旅したのは異世界じゃなくって、外だもん」
「外とか言ってバカじゃんオメー。オメーは知らないだろうけども、外の世界は暑くてたまらないんですぅー!」
「お前のほうがバカじゃん。3000年も経てば汚染とか普通に直ってるしー」
「そんなん知らないもん。だいたい異世界だって最初に言ったのオメーじゃん! やっぱりバカじゃん」
「オメーのほうがバカだっつーのー! オメーのそばにラトがいたから、あたしは嘘ついたんですぅー。ただでさえ騙されつつ育ってきたのに、その上あたしにまで騙されてバカじゃん。お前どんだけお人好し?」
「もー帰るー!」
「もう帰ってきてるんだっつーの。バカじゃん」

 いっぱいバカって言われた主人公はさすがに凹んで、すねててくてくと女の人に着いていってね?
 見覚えのある部屋に入るの。
 主人公が、ぷぷッ!
 しゅ、主人公が「太陽だー」とか言って、ぷぷぷッ!
 くすくす。
 主人公が「太陽だ」とか言って頑張って電気スタンドを作った部屋に到着ですよ。
 ふはははは!

 したら、木のそばに赤い実が落ちてんのね。
 前にラトが見つけたやつが熟れて落ちてんの。

 案内人は大喜びですよ。

「あたしぶっちゃけ、これ食べたくてここまで来たんだよね。やっと神の実食べれるよー」
「はー!? オメーバカじゃん。それ神の実じゃねーし! 普通の木の実だし!」
「あははん。いい? ぼうや。これはね? 神の実なの」
「だってオメー言ってたじゃん。神の実はでっかい木に実るってオメー言ってたじゃん! その木のどこが超デカいんですかー! 何基準でデカいとされているんですかー。こんな普通のサイズの木を『巨木です』って、オメーバカじゃん」
「ウザい死ね。いい、ぼうや? この塔がデカい木を削って作られたんですー。この塔イコール伝説の木! オーケー? したがってこれは、1000年に1度実る神の果実なのでしたー! いえーい!」
「もういいよ、もー! 何言っても綺麗に言い返されるよ、もー」

 でもそんとき、女の人がいきなり後ろから銃で撃たれちゃうのね。

 バキューン!

「あー!」

 撃った奴がラトなわけ。
 もうラト、どもってなくって普通に喋るの。

「このアマ、余計なことバラしまくり。ホントやだ。なんか語尾にちっちゃいダブリューいっぱい付いてそうな話し方しちゃってさー」
「ラトお前、マジ?」
「何がだよー。っつーか下界、まだ人間生きてたんだなー。この塔で飼ってた奴以外に人間なんてもういねーって思ってたし」
「お前までアレですか? バカなんですか?」
「バカはオメーだし。ちなみにお前の本当の両親も死んでます。お前を産んですぐにアレしておきました」
「はいはい?」
「どいてどいて。その実は俺が食べたいのです。お前を飼って遊ぶのも、もう終わりっぽいのです」
「なんで敬語?」

 そしたら、死んだフリしてた案内人の人が立ち上がってね、主人公が作った、ぷぷッ!
 しゅ、主人公が作った超小型ポータブル太陽「庶民型」のスイッチを入れちゃうのー!
 したら影とかできるわけ。

 ラトってぶっちゃけ悪魔だから、影を刺されたらお亡くなりになるのね。
 で、主人公が前にもらった短剣で、ラトの影を刺しちゃうの。

 ラト、主人公のことめちゃめちゃバカじゃんバカじゃん言ってたけど、自分で剣とか渡しちゃってて、こいつもバカでしたー!

 ぐさ!

「あー!」

 でも主人公、自分でやっといて、めっちゃラトに「刺してごめんちょ」って謝る謝る。
 だったら最初から刺すなよ、みたいな。

「俺は刺すな的なこと言っといたのにさー」

 ラトによる死ぬ前の愚痴。

「その実はな? 食べた奴を死なす効果があるわけ。オメーが食べたって普通に死ぬだけなんですよ。一方俺様は死んでも記憶持ったまま生まれ変わっちゃうから、それが嫌で実を食べたかったんですよ。俺の場合だと実を食べたら無になれちゃいますから」
「なんで敬語!? ラトォーッ!」

 はい。
 ラト、脱落。

 で、主人公はご乱心で実を拾って、がつがつ召し上がっちゃうのね。

 女の人は、さすがに気の毒ってゆうか、主人公の乱れっぷりに引いて、黙って見てます。

 女の人は昔、不死の実と知恵の実、両方食べてた人なのね。
 だから色々知ってるし、撃たれても死なないの。
 で、いい加減生きすぎたから「あたしも死ぬ実を超食べてしまいてえ」とか考えてたわけ。
 で、科学とか使って、実が落ちたときにキャッチできるように、木の根元に穴を開けたのよ。
 そこに実が落ちれば、遠くにいても女の人んとこに実がワープするわけ。
 でも落ちてきたのは主人公とラトでしたー。
 がっかりですよ。

 もう穴とか開けられないっぽいから、女の人は案内するフリして、直接実を食べに来たってわけ。
 ちなみに2つあった太陽なんだけど、片方は木星が発熱したものです。
 何故かは知りません。

 おやおや。
 そうこう俺が語ってる間に、主人公が召されましたよ。
 女の人も残りの実を拾って食べちゃいます。

 と、いう夢をアダムは見ていました。

 ここはエデンの園で、アダムがイヴに起こされるの。

 イヴの前世はめっちゃ未来人。
 軽く時空が乱れてます。

 勘のいい人は解るでしょうけれど、案内人の女とイヴは同一人物なのね。
 魂的に。

 名前がなかった主人公はというと、めっちゃ過去に魂が行って、アダムに生まれ変わっちゃってんの。

「なんかもの凄くバカって言い合う夢を見ていたぜ」
「それよりアダム、あたしは知恵の実食べたから、お前も喰え」
「マジかよオメーよー! それだけは喰うなって神様的な存在から言われてんじゃねえかよー」
「蛇にそそのかされた。お前も喰え」
「その蛇ってぶっちゃけラトだよ、もー! 解った解った、食べるよもー!」

 こうして歴史は繰り返されるのでした。

 ちゃんちゃん。

 …こんな軽い話じゃないはずなんだけど…。

 ちなみに本当はこんな雰囲気です。

拍手[4回]

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2009
August 03
 先に謝っておきます。
 ハイジファンの方、ごめんなさい。
 何故か友人に「ハイジの話をしてくれ」と頼まれたので無理矢理話をしたら、下記のような感じになってしまいました。 

------------------------------

 アルプスのどっか山奥でおじいちゃんと、ハイジって呼ばれる少女と、ヤギと、あとそうだ。
 ピーターが住んでいました。
 どうしてそんな不便な場所から引っ越さないかというと、確かおじいちゃんの借金が凄い状態だったから町から逃げてきたのです。

 おじいちゃんはヤギのミルクとか羊の毛を売って生計を立てていました。

 毛を刈るときの羊はまるで断末魔の悲鳴みたいな声を出すので目も当てられません。

「やめてください! やめてください! 乱暴にしないで! えーん、お母さ~ん!」
「ぎゃあぎゃあ喚くんじゃねえ。黙って毛をよこせ、この草食動物が。へっへっへ。こいつァいい毛だ。ウール100%じゃねえか」

 羊は泣き寝入りです。

 でも町に行くと即行でお金を取られてしまうので、おじいちゃんも泣き寝入りです。
 家計はいつでも火の車。

 でも、ハイジとピーターとヤギは毎日めっちゃ遊び回りました。
 ハイジはもの凄い速度のブランコを乗りこなすまでになっています。
 あとベタに草原で追いかけっことかしてたような気がしませんか?
 訊ねてどうする。

 たまにおじいちゃんの手伝いとかもするのですが、ハイジはおばかさんだからミルクを煮込むだけの作業すらままなりません。
 鍋の中を混ぜるだけでいいのに、どうして失敗してしまうのでしょうか。
 おじいちゃんに鍋の掃除という過酷な試練を与えたりしていました。

 ちなみにロッテンマイヤーさんについては一切触れる予定はありません。
 何1つ覚えていないからです。

 あとヤギの乳が出なくなって、それでヤギを売り飛ばすって話になって、でもそんなのハイジは嫌だから、ピーターと一緒になって薬草っぽいそこら辺の草とかをヤギに喰わせ、力技でヤギのミルク生産機能を蘇らせたりしていました。

 ハイジが下界の町でホームステイをしたときは、部屋のタンスに大量のパンを隠して、それでめちゃくちゃに怒られ、凄い勢いでおじいちゃんの家に戻されたりとトラブルの連続です。
 タンスにパンって、ハイジはパンを一体何だと思っているのでしょうか。
 アルプスの風習?
 でもそのシーンは確かにありました。
 ちなみにヤギの名前はユキちゃんです。

 そんな折り、車椅子に乗ったセレブっぽい女の子がハイジたちの縄張りに転校してきました。
 そこは普通に舗装されていない山の中だから車椅子では大変です。
 帰りは下りだから、ブレーキが利かなかったら天に召されます。
 そもそもクララはどうやって車椅子で山を登ってきたのでしょうか。
 とんでもない腕力です。

「さすがに不便だわ」

 そう思ったクララは、車椅子からスッと立ち上がります。
 ぱんぱかぱーん。

 それを見てクララたちは、じゃないかった。
 ハイジたちは大喜び。

「クララが立った! クララが立ったー!」

 優勝した球団ぐらいテンションが上がって、みんなもの凄く喜びました。
 ちなみにピーターは羊飼いで、様々な羊を自分の意のままに操ります。
 しかも複数。
 たいしたもんです。

 めでたし。

 …なんか違う気がする。

※追記。
 ピーターじゃなくて、ペーターでした。

拍手[7回]

2009
July 10

 will【概要&目次】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/207/

<万能の銀は1つだけ・3>

 ガルドの家の前には多くの花が手向けられている。
 やがて運び出されるであろう棺にも、少しでも死者を慰めようと色とりどりの花が敷き詰められているに違いない。

 角にある花屋の脇道に入ってしばらく進むとレンガ作りの家並みが通行人の左右に展開される。
 ガルドの家はその内の1軒で、そこは普段なら小鳥のさえずりぐらいしか耳に入らないような物静かな場所だ。
 だが今は葬儀のため、すすり泣く訪問者たちの声に取り巻かれている。

 待ち合わせに来ないガルドを心配に思い、レーテルがこの家を訪ねた頃はもう遅かった。
 謎の連続殺人事件は親友の自宅でも発生していたのである。
 現場検証のために既に集まっていた自衛士隊や家の周囲を取り囲む野次馬たち。
 本来そこにあるべきではない彼らの存在がレーテルの血の気を引かせ、全身を総毛立たせる。

 内心わずかに感じていた不安はもしかすると予感の一種だったのかも知れないと、レーテルは呆然と考えていた。
 ぽつり、ぽつりと雨が降り始める。

 弔いの儀はその翌日に行われた。
 見晴らしの良い丘に棺を埋める頃になると雨は本格的に勢いを増し、それは号泣する天の涙を連想させた。
 神父が祈りの言葉を捧げ、弔問者一同は雨具も身につけず両手を組んで目を閉じている。
 棺に最後の土がかけられ、レーテルは静かにそれまで閉じていた目を開けた。

「ガルド」

 ふと友の名を口にしてみる。
 最愛の女性を殺されてしまったガルドの心境がどんな有り様なのか全く想像もつかなかったため、どう声をかけていいのかレーテルには判断がつかないのだ。

 ガルドは黙って、10歳になる息子の背に手を添え、自分の妻が埋葬された辺りを見つめていた。
 息子のルキアも無言で、下唇を噛んで何事かに耐えるような表情だ。

 ガルドの家で一体何が起こったのか。
 詳細までをレーテルは知らない。
 現場に駆けつけていた自衛士や周囲の野次馬から集めた断片的な情報を組み立てみると、どうやらガルドの妻は息子をかばって背中を切りつけられ、死に至らしめられたらしい。
 つまり息子であるルキアが犯人を目撃した可能性は極めて高いのである。
 問題は、目の前で母親を殺されたばかりの子供に不躾な質問ができないことだ。

 ガルドの妻は聡明で美しく、ガルドが剣士の資格を取るまえから彼をささえてきたと聞き及んでいる。
 愛妻家として知られるガルドの悲しみも尋常ではあるまい。

 小高い丘でひとしきりの冥福を祈り終えると、レーテルと同じ考えを持ったのか、はたまた剣士一家から近づきがたい気配を感じたのか、彼ら親子に声をかける者はなかった。
 雨は、まだ降っていた。

 翌日になってレーテルは残された親子のことが心配になり、自分からかける言葉がないことを知りつつも再びガルドの家を訪れる。
 玄関の金具でノックをすると、普段着をだらしなく着崩したガルドが「おう」とレーテルを迎えてくれた。
 飲んでいたらしく、ガルドからは酒の匂いがする。

 居間にはいつものような明るさがなく、パンを焼くための釜戸も閉められていて、テーブルの上には商店から買ってきたと思われるパンと干し肉、そして酒瓶とで散らかっている。
 ガルドの伴侶がもしいれば、ただちに片付けろと夫を叱っているに違いない。

 レーテルが驚いたのは、ガルドの息子もテーブルについていたことだ。
 ルキアの前にも当然のようにグラスが置かれている。
 父親に似たのか10歳にしては大きな体の子供は少し顔を赤らめ、自分の膝を両手で鷲掴みにしていた。

「おいガルド」

 レーテルは目を見張って親友に詰め寄る。

「まさかお前」
「ああ。ルキアにも飲ませた。朝っぱらからな」

 そう堂々と返されては何も言えない。
 レーテルは「そうか」とだけつぶやいた。

「酒はいい」

 ガルドがフンと鼻を鳴らせる。

「怪我をしたら消毒もできるし、痛みも紛れさせる。心の痛みであってもな」

 親友の言葉を聞いて、レーテルは「らしくない」と思ったが、いやそれほど妻を失った苦しみは凄まじいのだと考え直す。
 息子に酒を振る舞ったのも、彼を慰めるためだろう。
 神経を研ぎ澄ましてみると、まだわずかに血の臭気が空気に混じっている。
 酒の香りでこれをかき消したいのかも知れない。

「せっかくだからオメーも付き合えや」

 ガルドが台所に行き、やがて新しいグラスを片手に戻ってきた。

「乾杯はできねえけどな」
「ああ」

 酒を受け取ると、レーテルはそれに口をつける。
 おそらくこれは妻と毎晩飲むためにあった酒なのだろう。

「さらに、酒の良さは他にもある」

 ガルドは不意に息子を眺めた。

「なあルキア。酒ってのは人をお喋りにさせるんだ。ちょいと語らせてもらうぜ」

 声を出さずにルキアは頷く。
 それを確認してガルドは言った。

「オメーの母ちゃんは偉大だった。俺の留守中、オメーを守って母ちゃんは死んだんだってな?」

 ルキアは「うん」と答え、さらに目の前のグラスを持つとその中身を飲み干した。

「俺が選んだ女は、テメーの息子を命懸けで守れる女だったんだ」

 ガルドは続ける。

「オメーは胸を張ってろルキア。そんなスゲー母ちゃんからオメーは生まれたんだ。ルキア、お前は強くなれ。剣士でなくてもいい。俺より強くなって、いつか母ちゃんみてーな女をテメーの手で守れ」

 するとルキアは初めて顔を上げる。
 その瞳には小さな炎のような光が宿っているように、レーテルには見えた。

「おう」
「いい返事だルキア。母ちゃんの敵討ちは俺たちに任せろ。ぜってーオメーの気も晴らしてやる。だがな、そのためには仇が何者なのか知りてえ。オメーが何を見たのか教えてくれ。そんなこと思い出させるのは酷かも知れねえが、オメーはいつか俺よりも強くなる男だろ?」

 レーテルは理解をした。
 ガルドが息子と共に酒を飲んだのは、現実から逃げるためでもルキアの気を紛らわせるためでもなかったのだ。
 犯人拿捕のために自らが奮い立つためであり、そのための情報を子供から得るためだった。

 空になった息子のグラスに、ガルドは酒を注ぐ。

「教えてくれルキア。オメーあの日、何を見た?」

 優しげな父親の目を、ルキアは真っ直ぐと見つめ返した。

「壁にかけてあった短剣が勝手に動き出した」
「なに?」

 ガルドが壁に目をやる。
 そこには盾や2本の細身の剣が交差するようにかけられている。
 短剣もいくつか横向きにレンガの壁に添えられていた。

「短剣って、そこの短剣か?」
「うん」
「勝手に?」
「ああ、勝手に。誰も触っていないのに、独りでに動いた。俺のほうに真っ直ぐ飛んできて、母ちゃんが俺をかばう感じで抱きついた」

 ルキアの話によると、母親は何度も背中を切りつけられ、刺されたのだという。
 さぞかし目を覆いたくなるような光景だったに違いない。
 致命傷を受けながらも母親は近くにあった花瓶に手を伸ばし、窓の外にそれを投げて人を呼ぶと、再びルキアに覆いかぶさったのだそうだ。

「どの剣だ?」

 ガルドが訊くと、ルキアは壁を見て「あれ?」と目を大きくする。

「なくなってる」

 それまでレーテルにあった心当たりがつい口を突いた。

「もしかしてガルド、お前自分の大剣とは別に、クレア銀でできた剣を持ってるか?」
「あ?」

 次にレーテルはルキアの目を見た。

「なあルキア、その短剣はクレア銀でできたやつじゃなかったか?」

 親子の回答はというとほぼ同時だ。

「クレア銀の短剣なら1本持っている」
「飛んできたのはその剣だ!」

 やはりクレア銀か!
 レーテルの目にも光が宿り始めている。
 親友が愛した女性の仇、必ず追い詰めてみせる。

「俺ァ女を見る目には元々自信があったんだ。やっぱり俺の目に狂いはなかったぜ」

 ガルドは息子の頭をポンポンと軽く叩いた。

「俺の女房は大事なものを命懸けで守れる女だった。俺の女房が産んだ男は将来、俺よりも強くなれる男だった」

 行くぜ相棒!
 友からの声にレーテルは立ち上がる。

「今ルキアから聞いた話を自衛士らに教える」
「ああ、そうしよう」
「ルキア、オメーの世話は適当に頼んどく。俺がいねー間、この家を任せるぜ」
「おう!」

 ちょっと着替えてくると言い残し、ガルドは居間を後にする。
 窓から外を眺めると、雨はもう上がっていた。

<巨大な蜂の巣の中で・3>に続く。
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/291/

拍手[2回]

2009
May 18

 will【概要&目次】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/207/

<そこはもう街ではなく・3>

「涼! 下がってろ!」

 叫ぶと同時に大地は木刀を小さく振り下ろし、女友達の右手首を打つ。
 そうでもしなければ自分が刺されてしまうからだ。

 彼女は手首の痛みを感じたらしく顔を歪めたものの、それでもひるまずに大地にナイフを向けようと身構える。
 瞬間、大地は木刀を大きく振りかぶると、目で殺気を演出した。
 反射的に頭部をかばう彼女に対し、大地は木刀を構えたまま下から蹴りを放ち、再び友人の手首に打撃を与える。
 ようやく相手の手からナイフが離れた。

 数歩下がって間合いを広げると、大地は落ちた刃物を後方へと蹴り去る。
 固い物がフローリングの廊下を滑る音がして、ナイフが戦闘の圏外に行ったことを耳で確認した。
 大地の目線の先には、見慣れた顔が手首をさすっている。

「どういうつもりだ、サヨ」

 木刀を構えたまま、大地は訊ねた。

 サヨというのはいわゆるニックネームで、正確には小夜子が本名だ。
 涼と同じく、彼女も中学時代からの友人である。
 仲間内では最もおとなしく、たまに勘違いをしておかしな発言をする、いわゆる天然ボケタイプというやつだ。
 以前から吹奏楽部に所属するなどし音楽を愛し、今は音大に通っている。

 普段のファッションはおっとりした顔つきに合ったものが多く、派手さはない。
 この日も白のコートに茶色いブーツを履いていた。

 大地が再び小夜子に問う。

「サヨ、お前、何があったんだ?」

 彼女が問答無用で刃物を、おそらく殺すつもりで大地に向けてきた理由がどうしても解らなかった。

 小夜子は手首をさすることをやめ、静かに両手を胸の前まで持ち上げる。
 手首は痛むであろうが、彼女の骨に異常がないことは大地がよく解っていた。
 木刀を振るった際もしっかりと手加減をしていたからだ。

 小夜子が取った構えは、戦いのためのであることが一目瞭然だった。

 肩まで伸びた黒髪を耳にかけ、小夜子はにやりと口の端を歪ませる。
 大地は内心「くそ」と毒づいた。

 車1台が通れるぐらいの小道の途中に、小夜子が住む一軒屋はある。
 その玄関を最初にノックしたのは涼だった。

「こんにちはー! 誰かいませんかー!」

 街に電気が供給されていない今、インターホンは意味を成さないのだ。

 普段だったら小夜子本人であったり、彼女の兄であったり、または両親などがドアから出てくるところなのだが、さて今日はどうだろうか。

「サヨー! いないかー!? いないみたいだな」

 中からの反応を感じ取れなかった涼は扉を叩くことをやめ、ドアノブを掴んで回す。
 すると何の抵抗もなく玄関は開いた。
 鍵がかかっていなかったのだ。

「サヨの奴、無用心だな」

 涼がそうつぶやいていた。
 もちろんこれは「小夜子が消えていなかったら」の話で、街の住人と同じく彼女が姿を見せないことは充分に有り得る。

 小夜子の家に2人で入り、大地は行儀良く並べられた靴に目をやる。
 家族の物と思われる靴の中に、年頃の女性が履くようなものはなかったが、念のため涼に訊ねる。

「こん中にサヨの靴、ある?」

 すると涼は「ない」と断言をした。
 大地は「そうか」とわずかに首を傾げる。

 涼は大地と違って戦いには向かない反面、観察力と記憶力が凄まじい。
 ニュース番組を1度見ただけでも内容やデータの全てを記憶し、細々とした場面で役に立ってきていた。
 他人の生年月日や年齢は聞いただけですぐに記憶するし、ほんの少し髪を切っただとか指輪を変えたとか、細かいことにもすぐに気がつく。

 その涼が「小夜子の靴がない」と言うからには、小夜子もまた大地たちと同じく消えなどおらず、外出してしまった可能性を示唆していた。

「ん?」

 と涼が視線を下に下げる。
 並べられた靴のすぐ先はフローリングの廊下が伸びていて、居間とダイニングに続いているはずだ。
 靴を脱いだ者がスリッパを履くまでの間、足を冷やさぬようにと玄関先には白い小さな絨毯が引かれている。
 その絨毯に、靴のまま上がり込んだかのような足跡が薄っすらと見受けられた。
 男のそれよりは小さな足跡に思えたが、何者かが侵入したことは間違いなさそうだ。

「俺が先行くよ」

 有事の際があった場合、足元が靴下では滑ってしまって踏ん張りが利かなくなる。
 そこで大地は侵入者に習い、ブーツのまま上がり込み、絨毯を踏んだ。

 小夜子の家に刻まれた足跡は極めて薄いものだった。
 今日び土の上を歩くことがほとんどないためなのだろう。
 やや小振りな足跡は3歩ほどで途切れていて、右手の階段を上ったのか居間に向かったのかがはっきりしない。

 小夜子はこのとき、既に息を殺して大型のナイフを構えていたに違いなかった。
 大地がダイニングに続くドアをくぐった瞬間、胸を目がけて刃が直進してきたのだ。
 大地がこれを直撃させることなく対応できたのは、木刀の中心部を持って警戒をしていたからに他ならない。
 もし柄の部分を握ったままだったら、狭い廊下で木刀は邪魔にしかならなかったはずだ。

 反射的にナイフを木刀で受け流すと同時に、大地は信じられないものを見た。
 相手が小夜子だと判明したのはこの瞬間である。

 人違いで襲われた可能性を考慮し、大地はわずかに後退し、小夜子の反応を伺う。

「俺だよ、サヨ」

 しかし小夜子は口元に笑みを浮かべると左半身を前にし、ナイフを右手にしたまま向かってくる。
 背後にいるはずの涼に対し、大地が怒鳴ったのはこのときだ。

「涼! 下がってろ!」

 その後の小競り合いで小夜子の武器を取り除けはしたものの、大地は様々な疑問を頭に描いていた。
 小夜子は自宅内であるにもかかわらず薄茶色のブーツを履いていて、玄関にあった足跡の持ち主を限定させている。
 つまり小夜子はわざわざ玄関で靴を履いてから自宅に潜伏していたことになる。

 さらに、小夜子の取る戦闘体勢にも府に落ちないものがあった。
 まるで隙がないのだ。
 一朝一夕でできる構えではなく、明らかに訓練を受けた者の体勢だ。

 例えば小夜子が催眠術などで操られていたとしても、こうはならない。
 本人に戦闘経験がないためだ。
 瞬発力や筋力が増強することはあっても、構えが玄人に匹敵するわけがない。

 大地は自然と、以前通っていた道場のことを思い返していた。
 ある程度、腕が熟達すれば道着の着こなし方を見るだけで相手の力量を知ることができる。
 構えを見るということは、それに似ていた。

 今目の前にいる小夜子は間違いなく実力者だ。
 中学から楽器の演奏ばかりしていた友人がこの雰囲気を出すことは年単位の稽古が必要で、大地が知る限り小夜子にはそのようなことに時間を費やすことがなかったはずだ。

 ライバルの和也と一緒になって小夜子に護身術を教えたときも、彼女は不器用を極めたかのように奇妙な動きを繰り返すだけだった過去は印象深い。

 大地は木刀の真ん中を握りつつ腰を落とし、目で小夜子を威圧をする。
 小夜子からすればこれにより、素手で襲い掛かれば返り討ちに遭うことが明白になっているはずだ。
 同時に彼女の逃走を未然に防ぐ効果もある。

 そうして相手の動きを封じておき、大地は確信を口にする。

「お前、サヨじゃないな? 誰だ?」
「なに!?」

 背後から涼の慌てたような声色が届く。

「サヨじゃない!?」
「ああ」

 大地は小夜子に似た女から目を逸らさずに告げる。

「もしこいつがサヨだったら、ここまで隙のない構えは取れない」
「大地君、勘がいいのねえ」

 小夜子と全く同じ声だ。
 いや、それよりもこいつは俺の名前を知っている。
 そのことのほうが重要だ。

 大地はさらに考えを巡らせた。

 姿形が小夜子と同じこいつは、俺のことを知っている。
 その上で襲いかかってきたわけか。
 攻撃の1つ1つは、こちらが抵抗しなかったらまず間違いなく致命傷を負わされていた。
 つまり殺す気で向かってきたということになる。

「目的はなんだ? お前は誰だ」

 街から住人が消えたことと無関係ではあるまい。
 心の中で、大地はそう直感していた。

 小夜子そっくりの女は「内緒よう」と、再び静かな微笑みを浮かべている。

<万能の銀は1つだけ・3>に続く。
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/243/

拍手[3回]

2009
April 18

 will【概要&目次】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/207/

<巨大な蜂の巣の中で・2>

 とにかく多くの情報を、私は1度に得てしまった。
 そのだいたいが現実から離れているもので、鵜呑みにすることは簡単ではない。

 ソドム博士が人工的に自らの頭脳を覚醒させ、文明を破壊しようとしているだのという話は明らかに常軌を逸しているし、私のフィアンセが殺害されたなどという情報も認めたくはない。

 混乱からなのか眠りが浅く、私は夜勤の疲れを癒すことができないでいた。
 今は疲れた体を奮い立たせマイカーを走らせ、メリアのマンションに向かっている。
 ハイウェイは通勤ラッシュだったが、私の車は逆車線を行くので進み具合は上々だ。
 シティのビル群は今日も鮮やかに朝日を反射させていて、その明るさが逆に憂鬱な私をさらに滅入らせていた。

 助手席では、婚約者と全く変わらぬ姿を持ったアンドロイドが黒髪を耳にかける。
 その仕草までもが彼女と同じ動作で、やはりメリアの死が現実のものとは到底思うことができない。

「ねえ、君」

 緩やかなカーブを曲がりながら、私は前方を見たまま訊ねる。

「君とメリアの違いは、具体的にあるのだろうか。体の内部が機械であるということ以外に」

 するとアンドロイドは「そうですね」と暗い声を出す。

「外見や音声、仕草などは、メリアさんと私は共通しています。違うのは体重ですね。私のほうがメリアさんよりも重量があります。また、性交は可能ですが、私は身ごもることができません」

 私は聞くともなしに「そうか」と気のない返事をした。

 視界には日常が、つまり高度な文明の象徴ともいうべき摩天楼が広がっている。
 私の車はその間を縫うように、音もなく進んでゆく。
 この光景が無になってしまうことなど、私にはやはり想像もできない。

 マンション地下の駐車場に車を止め、私はアンドロイドを連れて正面玄関に回る。
 メリアの部屋にはここを通らねば行き着くことができない。
 セキュリティ解除のために合鍵を取り出す私を、彼女が静かに制した。

「必要ありません。私はメリアさんと同じなのです」

 言うが早いか彼女はドアの脇に取り付けられたセンサーに目を近づけ、網膜を認識させる。
 続けてパネルに人差し指を添え、指紋を認証させてしまった。
 音を立てずに内部へのドアが開く。

「そんなこともできるのか」
「ええ」

 彼女はその悲しげな目を伏せる。

「そうでなければ私がメリアさんに成り代わることができませんし、彼女を助けにここに駆けつけることもできません」

 少なくとも表層上だけは、彼女は細部に渡って完璧にメリアと同じ作りをしているということらしい。
 網膜や指紋まで同じとなると、いよいよ彼女のメカニズムは現代科学を超越している。
 いや、そもそもここまでスムーズに細かく速く人間と同じように動け、なおかつ複雑な会話まで可能である時点で技術力に関しては疑いないものなのだろう。

 ふと、背筋に鳥肌が立つ。

 彼女は記憶も性格もメリアと同じものを持つと言う。
 それまでが本物であったら、彼女はメリアそのものではないか。

 エレベーターで6階まで移動し、メリアの部屋の前へ。
 そこでも彼女は網膜と指紋を使って玄関を開けると、私を中へと招き入れた。
 やはりメリア本人にそうされるのと何も変わらない。
 雰囲気も、何もかも。

 メリアと同じ顔をしたアンドロイドは相変わらず悲しげな目をしているが、私の表情も似たようなものになっているのだろう。
 どちらも無言のままだった。

 靴のままダイニングを通り過ぎ、我々がリビングまで歩を進めると、センサーが人の気配を察知して明かりを点ける。
 テーブルと椅子が倒れていていること以外、室内は普段と変わらぬ様子だ。
 白い壁には花畑をモチーフにしたカレンダーが映し出されているし、薄いピンクのベットにはディホルメされたウサギのぬいぐるみが横たわっている。

「夕べ、私が駆けつける頃、既にメリアさんは」

 続けにくそうにアンドロイドは言う。

「デリートに分子分解されていました」
「遺体がないだけに、僕にはやはりメリアの死を信じられないよ」

 アンドロイドの言を信じるならば、身に着けていた物も含めてメリアの肉体は消滅している。
 これは錯覚の一種なのだろう。
 遺体はなく、代わりにこのアンドロイドがいるという現状は、ただでさえ納得のいかない親しい者の死を私に理解させない。

「当時は細胞を分解された際特有の甘い臭気がしていたのですが、換気されてしまったようですね」

 彼女には匂いを感じ取るセンサーまで備わっているようだ。
 言葉遣いが敬語ではなく、また彼女が自分の正体を打ち明けることをしなかったら、私はおそらく彼女がメリアではないことに気づかないだろう。

 見ていれば、彼女には感情もあるように思える。
 もしくは感情がある風に見えるよう、素振りをプログラムされている。
 機械やプログラミングに詳しいわけではないが、その技術にしても大変なものであることぐらいは解る。

 アンドロイドは相変わらず泣き出す寸前のような表情だ。

「メリアさんの死亡は証明できないことなのかも知れません」

 私はその言葉に「そうだな」と素直に頷いた。

 私はどうするべきなのだろうか。
 メリアが生きていると信じ、婚約者を探し出すべきか。
 アンドロイドの言葉を信じ、ソドム博士の野望を阻止する運動を起こすべきか。

 冷静に考えるならば、それは両方を同時進行させることがベストなのだろう。
 クリーム色のソファに私は腰を下ろし、タバコに火をつけると、そのままアンドロイドを見上げる。

「君は言っていたね」
「はい?」
「私に信じてもらうためなら、解体されても構わないと」

 すると彼女はうつむき加減に「はい」とか細く返事をする。

「いや、さすがに解体なんてこと、僕は望んでいないよ」
「はい」
「ただ、もう少し君自身の情報が欲しい。質問に答えてもらえるかな?」
「はい」
「ソドム博士が設けた君の存在理由なんだけど、それは患者を洗脳することだったね?」
「はい」
「どうやって洗脳を?」

 すると彼女は部屋の中央まで歩き、私のほうに振り返る。

「私には、メリアさんに成り済ます以外に、別の機能があります」
「ほう」
「アンドロイドには固有の機能と、共通する機能があるのです」
「それは、どんなものなんだい?」
「自爆し、自らを破片にしてしまうことがアンドロイドにとって共通する重要な機能です。身体の一部が欠損するようなダメージを負ってしまった場合など、自分の正体が知られてしまう場合などに発動させます」
「それはやめてほしいな」
「ええ。これは自分の意思でいつでもスイッチを入れることができるのですが、私はそんなことをする予定がありません。自ら正体を明かすほどですから」
「それを聞いて安心したよ。メリアの姿のまま目の前で爆発なんてされたら僕は発狂してしまうだろう」
「他には、アンドロイドは総じて高い戦闘能力を有しています。格闘能力はもちろん、様々な重火器の扱いにも長けています」
「それも僕には向けないでほしいね」
「もちろん、お約束します」
「他には?」
「あとは機体別に設けられた固有の機能ですね。デリートの場合は物質の分子分解がそれです」
「君にもそういった特殊能力が?」
「はい。私の眼球にはある仕掛けがあるのです」

 すると彼女はバックから携帯電話を取り出し、それをテーブルの上に置いた。

「この携帯電話は私の一部なんです。これと連動させて、私は立体映像を投影することが可能です」
「立体映像?」
「はい。今、お見せします」

 彼女はテーブルから数歩下がり、顔を携帯電話に向ける。
 直後、驚くべきことに空中にリンゴが出現した。
 リンゴはゆっくりと回転しながら大きくなったり縮んだりを繰り返している。

「これが立体映像だって!?」

 質感が現実的すぎる。
 偽物であると教えられていても、私にはこれが映像であると思えない。

 手を伸ばし、私はリンゴに触れてみる。
 何の感触も抵抗もなく、指先はリンゴの中に入ってしまった。

「驚いたな。ここまでリアルだとは」

 立体映像といえば比較的新しい技術で、まだ家庭には普及していない。
 映画館でしか採用されていないシステムのはずだった。
 以前メリアと何度か見に行ったことがあるが、あれは8方向から特殊な光線を放射することで実現できる幻だ。
 映像はどこか荒く、それが空間に投影されたものであると解る。
 しかしこのリンゴときたら、本物そのものではないか。

 彼女はリンゴから目を逸らさず、言う。
 リンゴは形と色を変え、レモンになって回転を始める。

「どんな物でも投影できます。私自身よりも大きな物を映すと映像が乱れてしまいますが」
「そこのケータイと君の目から映像を出現させているのだとしたら凄いな。たった2方向からの放射でここまで完成された立体映像とは」
「正確には3方向から光線を放っています。2つの眼球部分と、携帯電話型のオプションから」
「つまり立体映像は君と電話機の間にしか出現させられないと?」
「はい。これを悪用すれば脳に揺さぶりをかけるような映像も再現できます。音声は出せませんが、視覚から入る情報は人にとって膨大ですから」
「なるほど。患者にそういった効果のある映像を見せて洗脳を図ろうとしていたわけだね」
「そうです。あ、でも! レミットさんからの信用を得るために用いることはしません!」
「ああ、そうか。用心しなくてはならないかもな。でもそれを僕に伝えてくれたことに感謝するよ」

 しかし私は肩を落とす。
 彼女はやはりメリアではなく、アンドロイドなのだ。
 確実に私のフィアンセとは別物であることは認めなければならない。

 気落ちを悟られぬよう、私は話題を変える。

「君に訊きたいことが他にもあるんだ。ソドム博士の計画について。それを阻止するとしたら、我々はどんな行動を起こすべきだろう」
「それが」

 空中からレモンが消え、彼女は携帯電話をバックに戻す。

「実はこれといった考えあるわけではないのです。計画の細部までは、私には知らされていません」
「じゃあ、こうしてはどうかな」

 私はタバコを消し、立ち上がる。

「今後、どのようなことが起こるのかを調査すると同時に、ソドム博士、または博士が作った他のアンドロイドを見つけ出して情報を集める。情報が集まったら改めてその計画を阻止する手段が見えてくるだろう」
「ええ」
「ただ我々だけではとても調査なんてできそうもないな。人類飼育計画の阻止なんて持っての他だろう。ネットを使って情報収集するにも限界がありそうだ」
「ええ、私もそう思います」
「さて、どうしたものか」
「私の周りにもアンドロイドが紛れ込んでいるはずです。身近な人たちが人間であるか機械であるか、まずは調べたほうがいいかも知れません」
「僕のことは調べなくてもいいのかい?」
「はい。私はレミットさんにも気づかれることなくメリアさんを演じる予定でした。レミットさんがアンドロイドなら、そのような演技は必要ありませんから」

 彼女は再び瞳を潤ませ、くちびるを震わせる。
 どのような感情からなのか、彼女はとても悲しそうだ。

「仮にアンドロイドが特定された場合ですが、これは気をつけなくてはいけません。正体が知られたことを彼らが気づけば、アンドロイドたちは躊躇なく攻撃か自爆かをするでしょう」
「要するに本人に気づかれることなくスキャンをするとか質疑応答を試さなきゃいけないわけだ。難しいことだね」
「ええ。しかし私にも立体映像を映し出す機能があります。これが何かに有効利用できないかどうか、さらに検討してみます」

 彼女は言うと、その沈んだ表情を下に向ける。

 このときまだ、私は彼女の悲しげな瞳が持つ本当の理由に気づいてはいない。

<そこはもう街ではなく・3>に続く。
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/229/

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プロフィール
HN:
めさ
年齢:
48
性別:
男性
誕生日:
1976/01/11
職業:
悪魔
趣味:
アウトドア、料理、格闘技、文章作成、旅行。
自己紹介:
 画像は、自室の天井に設置されたコタツだ。
 友人よ。
 なんで人の留守中に忍び込んで、コタツの熱くなる部分だけを天井に設置して帰るの?

 俺様は悪魔だ。
 ニコニコ動画などに色んな動画を上げてるぜ。

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