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夢見町の史

Let’s どんまい!

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2024
May 11
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2008
April 24
「バーベキュー会場の下見なんて、わざわざ二日酔いで苦しむ休日に行くもんじゃないでしょ~?」

 それが俺の言い分だった。
 この意見を、チーフがたった一言で全否定する。

「下見しとかねえと、当日ぐだぐだになるだろ!」

 全くですよねー。
 すっごく同感。

 こうして当日、漲る二日酔いに負けそうになりながら、俺は7日目のセミみたいなコンディションでチーフに電話を入れる。

 もしもしぃ~。
 チーフ~?
 生~き~て~る~?

「おう、駄目だ。飲みすぎた。正直、どこにも行きたくない」

 やっぱり?
 でも行くの~!
 実は昨日、チーム「りんく」の仲間らとうちで飲んでたんだけどね?
 さっき俺が起きたら、みんな帰ってて、誰もいなくなってんの。
 寂しくて泣きそう。
 誰か人に会わなければ、俺はもう死んじゃいます。

「お前は小動物か。っつーかマジで行くのかよ~。下見なんて、どうでもいいじゃねえかよー!」

 あのね?
 毎度同じ指摘ですみません。
 チーフが言い出した企画です。

 さて。
 下見の主な目的はいくつかある。
 バーベキュー当日に迷子にならないよう、正しい道順の記憶。
 食料を確保するための販売店がどこにあるのかを把握しておくこと。
 現地の雰囲気を確認。

 駅を降りて、俺はすぐに酒屋を発見した。

「チーフ、お酒売ってる!」
「酒の確保、OK!」
「あそこにあるの、スーパーじゃね?」
「食料、OK」
「チーフ! メガネも売っとる!」
「メガネOK! おや? めさ、ドーナッツも売ってるぞ」
「ドーナッツは要らない」

 メガネは必要なのに、ドーナッツは外されてしまう。
 俺たちは一体、どのようなバーベキューを目指しているのだろうか。

「チーフ! お弁当屋さんもある! これで現地では料理しなくて済むね!」
「おう、そうだな」
「お! 病院もあるよ!」
「動物病院、か。まあ大丈夫だろう」

 ここまでくると、おかしなことに突っ込んではいけない暗黙のルールみたいなものが発生している。

 目的地に到着すると、そこは大自然をそのまま利用している雄大な公園だ。

「すげーいい!」
「なんか、最高だな」

 森林や池。
 土の道を歩くのも久し振りだ。
 公園内というより、のどかな田舎を旅しているかのような錯覚に陥る。

「なんか、撮影とかで使われてそうだな」

 チーフも俺と同様、公園に来たおかげで何故か二日酔いが治っている風だ。

「そうだ、めさ。ここで自作映画みたいな感じで、何か撮ったら面白そうじゃねえ?」

 楽しそう!

 思い浮かぶのは、創造性豊かな仲間たちの顔。

 シンガーぴぃのプロモーションビデオなんて、撮ってみたいな。
 または役者である、かづき君の一人芝居とか。
 そうだ!
 かづき君には、ぴぃのマイクスタンド役として活躍してもらうか。
 曲の合間合間で、彼にはセリフを言ってもらおう。

「主役やるの、ホンマ大変」

 なんて生意気なマイクスタンドだ。

「なあ、めさ」

 チーフの声が、俺を現実に引き戻す。
 彼は、少女の銅像を指差していた。

 丸い石の上で、全裸の少女が伸び伸びと座っている。
 両手で股間を覆い隠し、背筋を少し寝かせかけているような体勢だ。

「恥じらいがあるんだか、ないんだか解らねえ」

 相槌を打つと同時に、俺にあるアイデアが舞い降りる。

「そうだチーフ! 自作映像の内容、浮かんだ!」
「どんなの?」
「かづき君に、この銅像にマジ告白してもらうの! 初の共演者が、銅像」
「それ、素晴らしいな!」

 それではここで、かづき君のために、そのシナリオの全貌を記しておくことにする。



「いきなり呼び出して、ごめんな」

 かづき君、銅像相手に気を遣う。

「はは。なんか、やっぱ緊張するわ」

 かづき君、絶対に動かない相手に気を張る。

「あんな? 俺、お前にな? 言いたいこと、あってん。あ、そうだ。そんな格好じゃ寒いやろ?」

 銅像に上着をかけ、優しさを見せるかづき君。

「お前、気づいとった? その、なんていうか、俺の気持ち?」

 ここで銅像の顔、アップ。
 何が言いたいのか解らない表情だ。

 ポケットに両手を入れ、銅像に背を向けるかづき君。
 何故か空を見上げている。

「俺、お前のことをさ? 前から、ずっとな? …好きやった」

 沈黙。
 かづき君は無言になり、銅像も引き続き喋らない。

「俺、今やってるマイクスタンドの仕事も頑張るよ! 今度やる劇なんて俺、主役やることになったんやで? ワカメの役や。俺、ワカメの役だったら自信あんねん」

 逆に拝見したいお仕事である。

「だから、結婚しよ? 子供はさ、2人欲しいな」

 なんか突っ込むのも面倒だ。

 かづき君は、ここで大声を張り上げる。

「お前じゃないと駄目なんや! 俺、お前のこと、大好きやー!」

 銅像を背後から抱きしめるかづき君。

「頼む! 俺と、結婚してくれ!」

 再び静寂。
 つい立ち止まり、それまで成り行きを見守っていた通行人のおばあちゃんが、手を合わせて祈る。

「え? ホンマか?」

 驚きの表情で、銅像を直視するかづき君。

 あ、もう書かなくていいですか?

「いやったー! ありがとう! 俺、一生お前のこと大事にするわ!」

 銅像をですか。

 気がづけば、通行人たちが足を止めている。
 1人が拍手を始めると、他の者も釣られて手を叩き出す。
 その拍手はやがて盛大な祝福となって、1人と1体に降り注いだ。
 ハッピーエンドだ。



「できれば、土砂降りの中で撮影したいな」
「めさ、それ撮ったらさ、ニコニコ動画とかでアップすればいいじゃん」
「それ、サイコー!」

 最低である。
 でも、凄く見たいので撮影は実行することにした。
 役者本人の意向は訊いてないけど、まあ大丈夫だろう。

 それにしても困ったものだ。
 バーベキューの下見で、バーベキューよりも楽しげなことを思いついてしまった。
 かづき君による、迫真の演技に期待大だ。

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2008
April 20

 仲間が推薦する、ある女優さんとお会いしてきた。
 俺たちがやろうとしている舞台のヒロインにぴったりで、思わず目を奪われる。

 N子と名乗ったその女優さんは、可愛いというより綺麗な容姿で線が細く、目に力のある美人さんだ。
 まだ出演の了承を得たわけではないけれど、俺は是非ともN子さんに引き受けていただきたいと強く思った。

 彼女を見れば、主演のかづき君も文句なしに納得してくれるであろう。

 だが、問題がないわけではない。
 どう見てもN子さんは、かづき君のドタイプなのである。
 かづき君の野郎が、自分にとってめちゃめちゃ理想的な女性と共演だなんて、なんか腹が立つ。

 俺はふと、楽しそうに笑うかづき君の顔を思い出していた。

「めささん、お茶が出てないよ? この家は、お客様にお茶も淹れへんの? ふ~ん」
「めささん、タバコ買ってきて」
「めささんのグラスがない? そこの軽量カップでええって。めささん、そういうのめっちゃ喜ぶ人やから大丈夫!」

 いっそ、チワワと共演させてしまおうか。

 しかし、俺たちチーム「りんく」は基本的に、他者に夢を与えたいと願っているのもまた事実だ。
 だったら、仲間であるかづき君にも夢を見せてやるべきではなかろうか。

 俺は腕を組み、思案に暮れる。

 もしN子さんが引き受けてくれたとしたら、俺は舞台稽古の合間に、そっとかづき君に耳打ちすることになるだろう。

「かづき君、お疲れ。あのさあ、今日はなんか、N子さんがずっとかずき君のくちびるばっかり見てるんだよね。ありゃ完璧に惚れた女の目だよ。今夜あたり、食事にでも誘ってみたら?」

 かづき君はおばかさんだから、きっと真に受けるに違いない。
 ご両親でも見たことがないぐらいに満面の気持ち悪い笑みを全力で浮かべ、「そんなことないよ~う」とか言いつつスキップで無駄な移動を繰り返すに決まっている。
 中2男子か、お前は。

 そんな嬉しそうな彼の笑顔は、確実に俺の中に生理的嫌悪感を芽生えさせるであろう。
 何より、N子さんが気の毒だ。
 かづき君の目を盗み、N子さんをこっそり呼び出すか。

「N子さん、ちょっといいですか? 実は、かづき君のことなんですよ。いやあ、仲間のことをこんな風に言うのは嫌なんですけどね? 実は彼、その、なんていうか、女性に対して、すぐ恋をしてしまうというか。言葉を選ばずに言えば、ただの女好きってゆうか。それで彼、ほら、特に今日はいやらしいギラギラした目でN子さんを見てるじゃないですか。だから気をつけてほしいっていうか、ねえ? なるべく彼に心を開かないでいてほしいんです。ああ、いえいえ。何かありそうだったら、俺がすぐに邪魔しますから、そこは安心してください」

 完璧だ。

 それでまた、俺はかづき君のところに戻るわけだ。

「なあ、かづき君。見ろよ、N子さんのリップ。あれって、本気のときにしかつけない色なんだって。彼女、ぜってーかづき君に気があるよ。くっそー! 羨ましいぜ、この色男! やっぱ敵わねえなあ」

 かづき君は、間違いなくスキップのレベルを上げるであろう。
 お前はそうやって、使いもしない脚力を鍛え続けていろ。
 大人の階段は登らせないがな。

 さて、次はN子さんに、と。

「あの、N子さん。さっきの話なんですけどね? やっぱりかづき君、N子さんを狙っているみたいなんですよ。俺、実はさっき、かづき君に呼び出されてしまったんです。彼、もの凄い剣幕で俺に怒鳴ってきたんですよ。『N子さんとのキスシーンを入れねえとぶっ殺すぞ!』って。あれは獣の目でした。でも、あのシナリオにキスシーンとかって、有り得ないじゃないですか。そこはさすがにどうにか誤魔化したんですけど、彼、正直何を仕出かすか解りません。本当に気をつけて」

 なんか、俺の嘘のせいでN子さんを怖がらせてしまうことが申し訳ない。
 だから俺、全身全霊を持って、かづき君の魔の手からN子さんをお守りします!

 さてさて、かづきくーん!

「いやあ、参ったよ、かづき君。さっきからN子さん、『かづきさんって、恋人いそうですよね』とか言ってさ、さり気なく色々と聞き出そうとしてくるんだよ。ほら見て。N子さん、照れてる感じじゃね? かづき君を見ないように意識してるべ? 女心だなあ。あれはね、自分の視線のせいで気持ちを悟られたくないんだよ。いいから稽古のあと、メシにでも誘ってみろって!」

 はん!
 お前は独り電気の消えた台所で体育座りしながら伸びたラーメンでも喰っていろ。
 この、浮かれぽんちが!

 りんくメンバーの才能は様々だが、共通する能力が「人に迷惑をかけること」だ。
 主催者である俺にしても、そこは例外じゃねえ。
 俺の底力を見せつけてくれる!

 ふはははは!
 あー。

 N子さんがこんなの読んだら、出演してくれなくなってしまうかも知れん。
 やっぱやめとこう。

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2008
April 19

 クリエイトチーム「りんく」には、徐々に優秀な仲間たちが集まってきている。

 音楽隊の若者2人は恋人同士で、このカップルに会うのは1ヶ月振りぐらいだろうか。

「めさ兄! 久し振りー!」
「お久し振りです、めさ兄」

 久し振り。
 2人とも、元気だった?

「いやあ、元気だったんですけど、俺たちこないだ大喧嘩しちゃって」

 そうだったみたいだね。
 なんでも、掴み合いにまで発展しちゃったんだって?
 恋人同士なんだから、普通に言い争えばいいのに。

「だって彼女、本気で股間に蹴りを入れてくるんですよ。それも何度も」
「えへへ。だって、頭きたんだもん」

 えへへじゃない。
 なんで若干嬉しそうに言うのだ。
 物理的な攻撃をするな。

「しかも、めさ兄」

 何?

「めさ兄が知らないところで、とんでもない濡れ衣を、めさ兄が着せられていましたよ」

 俺に濡れ衣?
 どんな?

「彼女がエキサイトして『もう別れる!』みたいなことを言い出したんですよ」

 うんうん。

「そんで、俺もあったまきて、『他に男がいるのかよ!』って返したんですね」

 うん、それでそれで?

「そしたら彼女、『実はあたし、めさ兄とデキてるもん!』って、凄いショッキングなことを」

 ちょっと待て。
 本当にショッキングすぎて、びっくりしたよ。
 なんでそんな大事な局面で、超関係ない俺の名前を出すんだ?
 彼女の人よ。
 それって一体、どういうことよ?

「だって、それぐらいリアルな嘘を言わないと、別れてくれなさそうだったんだもん。えへへ」

 そこで照れる意味が全然解らないから!
 だいたい、どうして俺を勝手に犠牲にするんだよ!
 他にもメンバーいるのに、なんでピンポイントで俺なわけ!?
 俺、彼氏に叱られちゃうどころのレベルじゃないぞ!?

「彼女、ホント凄いこと言ってましたよ。『めさ兄からはいつも言い寄られている』とか、『めさ兄とは初めて会った日にキスしてた』とか」

 アメリカでもそこまで展開早くないんじゃね!?
 自分で作っといて何だけど、りんくって本当、心の底から迷惑チームだな!

「俺もう、本当にショックでしたよ」

 俺もだよ!

「俺、思わず『明日めさ兄に話つけてくる!』って飛び出しそうになりました」

 事情を何も知らない無実の俺がめちゃめちゃ可哀想じゃねえか!
「何もやってない」って本当のことを言ったとしても、何故か嘘臭くなっちゃいそうだし!

「彼ね、最初に頭に浮かんだのが、金属バットだったんだって。ふふっ」

 話し合う気ねえじゃねえか!
 ってゆうか彼女の人!
 君、俺を巻き込んでおいて、本当に嬉しそうな笑顔だな!
 その表情も含めて、もう何もかも全体的に怖えよ!

「まさか、めさ兄と彼女が、俺の知らないところでそんなことになっていただなんて、信じられなかったですよ」

 俺なんか今現在、何も信じられねえし!
 もういいよ!
 日記に書いてやるよ!
 ホントありがとうございました!

 話をつけるためにどうして金属バットが必要だったのかは知りたくないので、訊ねませんでした。
 なんて怖い子たちだ。

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2008
April 09
 花見のことを日記に書けと、友人がうるさい。
 普通に楽しかった酒席で、談笑に明け暮れただけだったから、お花見の件では特筆すべきことがあまりないのだ。
 チーフは、あの花見のどこを拾ってほしいのだろうか。

 チーフの立てる企画は凧揚げといい、今回のお花見といい、いつだって心をときめかせる。

「仲いい奴、片っ端から誘って賑やかに飲もうぜ」
「オッケー! たまには大人数なのもいいね!」

 こうして、この魅惑的な誘いには何故か、かづき君だけしか引っかからなかった。

 総勢3名。
 全員男性。
 なんか、やる気を失ってしまいそうだ。

「色々と声をかけてみたんだけどさ、だいたいの奴が、花見の次の日しか空いてないって言うんだ」

 チーフは遠い目をしていた。

「だから、俺たちが花見をやった翌日に集まって、別個で花見やるって」

 俺たちは、嫌われているのだろうか。

 涙がこぼれないように上を向き、俺は「へッ! 大人数で群れるのは好きじゃねえさ」と強がりを言い、くちびるを噛んだ。

 お花見当日。

 俺は酷い二日酔いで、ベットから出たくない感じだった。
 正直、ずっとパソコンでソリティアをやっていたい。

「めささん! すんません、遅れました!」

 かづき君が迎えに来た。

「早く行きましょ!」

 彼は、瞳をもの凄く輝かせている。
 いよいよ花見を中止にしたくなった。

「めささん、俺ね? 関東に越して来て花見やるん、初めてなんですよ。だから今日は楽しみで楽しみで」
「そう、それは残念だったね」
「うわあ、この人! だるさを隠す気配ねえ! ってゆうか、なんで上半身だけ裸でソリティアやってるんですか!」
「なあ、かづき君。桜なんて、来年も咲くと思わないか?」
「俺がどれだけ楽しみにしていたのかも知らないで!」

 その時、チーフからの着信が。
 どうやら彼も今起きたらしい。

「うう…。もしもし? めさ?」
「うん。声の調子からして、チーフも俺と同じような具合らしいね」
「おう。ぶっちゃけよぉ、酒なんて1滴も飲みたくないんだけど」
「あはははは! 俺も俺も!」
「行きたくねえよ~」
「気持ちは解る。でもチーフが言い出しっぺじゃん! しかもね? 残念なお知らせが」
「何?」
「かづき君が、お花見する気満々」
「ホントあいつ、空気読めよなあ」
「全くだよね。俺からも、よく言い聞かせておくよ」

 正当な理由で花見を心待ちにしていた関西人が、駄目大人2人からボロクソに言われる。
 かづき君、まだ何も悪いことしてないのに。

 よろよろと起き出し、公園に集まる。

 合流した途端、俺はいきなりチーフに駄目出しをされた。

「めさ、お前、その格好は何だ」

 紺のロングコート。
 黒いシャツに、ダメージジーンズ。
 ワインレッドのブーツ。
 いい感じじゃね?

「ちゃんと花見の服装をして来い。ところでさ、酒は、やっぱ焼酎とお茶でも買うか?」

 俺、割るのめんどいから、ワインがいい!

「めさ、花見じゃないことをするな」

 また怒られてしまった。
 チーフはすぐ怒る。
 きっと疲れでも溜まってるのだろう。
 可哀想だから、あとで頭よしよししてあげとこう。

 桜を眺める絶好の場所には、俺が用意したレジャーシートを敷いておいた。
 気が利いたことに、俺はシートを2枚も用意していたのだ。
 元々は大人数を想定していたから、場所を広く取りたかった。
 我ながら完璧主義者である。

 ただちょっと計算外なことがあって、シートは思ったよりちょっぴりちっちゃくて、2枚並べても半畳分のスペースしか確保できなかった。

「めさ、この狭さは何だ」
「運命」

 そもそも3人で飲むには充分な広さではあったので、俺には先見の明があるってことにしておいた。
 結果オーライだ。

 それにしても、凧揚げの時もそうだったが、公園に来ると不思議なことに二日酔いが治る。
 何故かは知らないが、チーフも俺も、お酒を飲めるテンションになっていた。

「じゃあ、乾杯するか」
「かんぱーい!」

 さて。
 いよいよチーフが読みたかったお花見最中の描写である。

 それでは、どうぞ。

 桜が綺麗でした。
 会話が楽しかったです。
 また来年もやろうと思いました。
 以上です。

 だってホントに普通に楽しかっただけなんだもん!
 仕方なし。

 ちなみに、ちゃんとした広いレジャーシートは、花見をやって数日後に、バッチリ入手しておいた。
 そのことで、またチーフに怒られそうな気がするのは何故だろうか。

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2008
April 08

 俺たちにしか作れない舞台を作り上げよう!
 そんな熱い想いを胸に結成された表現チーム「りんく」は、メンバーが顔を合わせる度に解散の危機に瀕している。
 誰のせいだとか、あえて名前は書かないが、かづき君の功績だ。

 集合し、食事を済ませ、いざ計画の話し合いという大事な場面で、彼はごろりと横になりやがる。

「だって、ご飯食べたら、眠くなっちゃったんやもん。はは」

 母じゃない。
 わがままキャラまで先を越され、毎回非常に歯がゆい思いをさせられる。

 この関西人は目黒出身だ。
 などと有ること無いこと言いふらし、地味に好感度を下げるも、かづき君は気持ちよさそうに寝息を立てている。

 舞台についてリアルな知識を持っている者は、役者である彼しかいないのだ。
 それが先に寝てどうする。
 お前は砂漠の蜃気楼か!
 喩え失敗して、ごめんね。
 とにかく起きろ。

「みんな、俺に構わず先に進んで進んで。仕方ないやんかー。ご飯食べたら、眠くなってしもうたんやもん」

 思わず、俺まで畳の上で寝転る。
 ごろごろ転がりながら、「解~散!」と伸びをした。

 先日やったお花見にしても、そうだ。
 彼は人を怒らせる天才だった。
 ホームシックにかかり始めたのだと、かづき君は言う。

「あ~あ~。京都に帰ろうかなあ」
「へえ。かづき君って、京都出身だったんだ?」
「いえ? 大阪ですよ?」

 目の黒い部分を触ってやりたくなった。

 みんなで仲間の家に遊びに行った時もだ。
 俺たちは、酒の買い出しに誰が行くかで揉めていた。

 若手の協力者が立ち上がる。

「あ、自分が行きますよ」

 いやいや、年下の君に行かせたら、なんか自分が威張ってるみたいになっちゃうでしょ?
 だから、行かなくていいよ。
 ここはかづき君が行ってくれるって。

「めささん、俺もめっちゃ年下です」

 結局は俺とかづき君とでジャンケンをし、パシリ役を決めることになった。

 初戦は、チョキとチョキで、あいこだ。

 最初にチョキを出したということは、彼は次にもっと強いグーを出すか?
 いや、そう見せかけて同じチョキでくる可能性も捨てきれない。
 と、俺が考えていると読んでいるんだろ?
 ふふん、この毛の生えたハゲめ。
 浅い浅い。

 なんてことを真剣に考えていた。
 
 さあ、俺の手は決まったぜ?
 勝負の続きだ。

 と、思ったところを、かづき君の野郎、邪魔をしやがった。

「めささん、俺、次はグーを出しますよ。だからめささん、パーで勝ってください。やっぱ俺、めささんに面倒かけられまへん」

 俺は、ここまでいやらしい人間を見たことがない。
 とっても胡散臭い笑顔である。

 人のことはいえないが、こいつ、本気で勝ちにきていやがる。
 人のために酒を買いに行くのがそんなに嫌か?
 俺は嫌だ!

「そ、そう? かづき君は、ホントいい奴だなあ」

 などと笑顔を引きつらせ、俺が出したのは、もちろん馬鹿正直にパーではない。
 奴も、グーを出すと言ったそばから違う手を出している。

 そんなことだろうと思ったぜ。

 結果、俺が買い出し係だ。

 俺は「信じられない」といわんばかりの表情を浮かべ、無言でかづき君の顔と手を交互に見つめる。
 怒り、悲しみ、人生の苦痛。
 俺の全てを込めた視線を、かづき君はもの凄く綺麗にシカトした。

 彼はタバコを取り出し、火を点けると、俺とは目を合わせずに煙を吐く。

「めささん、負けたんだから、早く行ってくださいよ。ジャンケンで決まったことなんやから、しゃあない、しゃあない」

 血の涙を流しながら絶叫できなかった自分がもどかしい。

 しかし最近、待ちに待った復讐の好機がついに訪れた。
 夜分遅く、仕事帰りに電話が鳴ったのだ。
 出ると、かづき君の野郎だ。

「めささん、今日、暇~?」

 悪いが死ぬほど忙しい。
 朝から晩まで仕事をこなす毎日だ。
 貴様のその悩みのない声は一体何だ。

「俺ね? 2連休で、めっちゃ暇なんですよ~」

 おんどりゃあァ~ッ!
 うんぎゃーす!

 すまん。
 むかつき過ぎて声にならない。

「今から遊びに行っていい?」

 今からって、今から!?
 合流するの、12時回っちゃうぞ!?
 俺は明日も朝から仕事なのに!

「でも俺、めちゃめちゃ暇やってん。遊びに行かんと、も~暇過ぎて暇過ぎて」

 産まれてこなきゃいいじゃない!
 分かったよ!
 来たきゃ来いよ!
 家、空けとくよ!
 気をつけて死ね!

 普段なら絶対に口にしないレベルの呪詛と共に電話を切る。

 コンビニには今後、デイリーストアーにしか入れなくなる呪いとかかけたい。
 お前のような奴は、深爪してしまえ!

 いや、待て俺。
 これはチャンスだ。
 奴に、これからって時に寝られる切ない側に立たせる絶好の機会じゃないか。

 家路を急ぎながら、俺は脳をフル回転させた。

 まず、メシを与えないことにしよう。
 奴は何故か、喰わせると寝るからな。
 眠気覚ましのドリンクも用意しておいてやるか。
 そうしておいて、俺が先に横になってくれる。
 おやすみの挨拶も考えておかないと。

「いらっしゃい。そして、グッナイ!」

 そんな感じで、速攻決めてくれる!
 超楽し。
 ふはははは!
 あーっはっはっは!
 最高の夜でーす。

 夜空に向け、心の中で高笑いしていると、メールが届く。
 かづき君からだ。

 件名は、「中止です」

「駅で飯食ったら強烈に眠たなったから行かへん」

 のぉーうぉーりゃあーっくすッ!
 うぃがー!

 やっぱり声になりませんでした。

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プロフィール
HN:
めさ
年齢:
48
性別:
男性
誕生日:
1976/01/11
職業:
悪魔
趣味:
アウトドア、料理、格闘技、文章作成、旅行。
自己紹介:
 画像は、自室の天井に設置されたコタツだ。
 友人よ。
 なんで人の留守中に忍び込んで、コタツの熱くなる部分だけを天井に設置して帰るの?

 俺様は悪魔だ。
 ニコニコ動画などに色んな動画を上げてるぜ。

 基本的に、日記のコメントやメールのお返事はできぬ。
 ざまを見よ!
 本当にごめんなさい。
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